香水
「ラベンダーの香りだよ」
「気に入ってるんだよね」
ある日、彼は香水を使い始めた。
今までそんなお洒落なものはそんなに手を出さなかったのに。
使い始めた香水は、こっそり調べてみたらいわゆる
“モテ系”なタイプのものらしかった。
かくいう自分も、こそこそ調べるなんてらしくないことに
今までは手を出さなかったのだけれど。
でも、彼は決して“異性にモテたい”とあからさまに発信する
タイプではないことはよく知っている。
ならば、誰かに好意を寄せていて
そのアピールとして使い始めたのだろうか。
その相手は誰かなんて、分かるはずはない。
その相手はいつか、ラベンダーの香りに引き寄せられて
彼の好意にいつか気づくのだろうか。
好意に気づいて
いつか彼と同じ香りを漂わせて
自分の前に現れたりするのだろうか。
自分も同じ香水を付けて
彼の前に現れてやろうか。
それともあえて彼の前には現れずに、
彼の周辺の友人の前にでも現れて
「え、相手はお前だったの?」とでも言われてやろうか。
柄にもない姑息な手口を頭の中で浮かべ続けていたある日
彼は言った。
「ラベンダーの色はあなたの誕生色、ラベンデュラ。
花言葉は「あなたを待っています」「期待」「幸せが来る」だよ」
その香水が柄でもない自分の一部となったのは
それから間もないことだった。
Fin.
8/30/2023, 1:53:10 PM