学生の頃、帰路の最中
暑い夏の日に熱中症で倒れかけ
古臭い喫茶店のマスターに助けられた事があった。
そこのマスターは偏屈な人で客を乱雑に扱ってた
私もバイトでもないのによく店を手伝わされたよ。
競馬新聞ばかり読んで昼行燈な人だったが
あの人の珈琲は、どれだけ忙しい日でも
棘の無い爽やかな酸味や後に連なる柔らかな苦味
香り高く立ち昇る湯気一つも揺らぐ事は無かった。
一度、気になって質問した時は人が変わった様に
懇切丁寧に淹れ方を教えてはくれたが…
客に出すのは店主の珈琲だけと頑なに譲らず
私は軽食や片付けだけを手伝わされていた。
忘れられないんだ、カウンター越しのアンタが
憎まれ口の後に続く、あのほろ苦い香りが…
だから、アンタが辞めた後でも
私はがむしゃらに探してしまう。
あの古臭い喫茶店の心地好い空間や
私を呼ぶ声が、ふいに聴こえやしないかって
今でも、ずっとさ。
ー 忘れられない、いつまでも。 ー
いつか他人事になる未来
今じゃ鮮明には想い描けない先の事
その時になって今を振り返る頃には
そんな事もあったなぁ なんて
きっと、スワンプマンが笑うだろう
記憶を引き継いだ沼男が
私の形相で一年後の未来の中
人知れず、その違いを嗤うのだ。
ー 一年後 ー
初めても恋も目視出来ぬあやふやなモノだ
そして、そんな事柄さえ定義したがるのは人だけだ
いつ始まったのかが、そんなに重要だろうか?
何もかもを関連付けたがるのは
知性の悪癖ではないと
君は断言できるだろうか?
疑問の方が勝ってしまい
お題には添えず終いだが…
今日の所は、お目溢しいただきたいね。
ー 初恋の日 ー
ー 明日世界が終わるなら ー
そりゃいい、明日までは自由に生きられる
終わりが分かってんなら好きな事していいだろ?
だったら、明日を不幸だなんて思わんさ
地球てのは奇跡で成り立ってる様な星だが
如何せん、ここまで続いてくれただけで
急に途絶えたって何も可笑しかないからなぁ
完全、完璧なんてモンはこの世にゃ無くて
何事にも終わりがないってのは辛いだろ?って
単純明快、そんだけの話だ。
ー 明日世界が終わるなら ー
最初は、偶然の相席だった
この時代には珍しく喫煙席がある店で
向かい合った君と互いに被った注文は
結露すら涼し気なアイスコーヒーだった
留まりきれぬ水滴が素知らぬ顔で
指の隙間を通り過ぎる度に
無関心が過ぎたまま、席へ落ちた僕らを
風刺画の様に表している気がしてならなかった
ふと、灰皿を取ろうとした手がぶつかる
紫煙は混じり合い
珈琲に溶けたミルクの様に
視線は交差し、認識は示された
君を黙認した後、少しだけ残念に思ったんだ
もう相席の他人としては
その隣を過ぎ去れない事を。
ー 君と出逢って ー