黒山 治郎

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学生の頃、帰路の最中
暑い夏の日に熱中症で倒れかけ
古臭い喫茶店のマスターに助けられた事があった。

そこのマスターは偏屈な人で客を乱雑に扱ってた
私もバイトでもないのによく店を手伝わされたよ。

競馬新聞ばかり読んで昼行燈な人だったが
あの人の珈琲は、どれだけ忙しい日でも
棘の無い爽やかな酸味や後に連なる柔らかな苦味
香り高く立ち昇る湯気一つも揺らぐ事は無かった。

一度、気になって質問した時は人が変わった様に
懇切丁寧に淹れ方を教えてはくれたが…
客に出すのは店主の珈琲だけと頑なに譲らず
私は軽食や片付けだけを手伝わされていた。

忘れられないんだ、カウンター越しのアンタが
憎まれ口の後に続く、あのほろ苦い香りが…

だから、アンタが辞めた後でも
私はがむしゃらに探してしまう。

あの古臭い喫茶店の心地好い空間や
私を呼ぶ声が、ふいに聴こえやしないかって
今でも、ずっとさ。

        ー 忘れられない、いつまでも。 ー

5/9/2024, 10:26:22 AM