遠距離恋愛のあなたと、
一日一回しようねと約束した電話。
最初は待ち遠しかったけど、だんだん、
お互い気分じゃない日もでてくる。
でもこの約束を取消すのは、
私達の恋が距離に負けた気がして嫌だった。
そんな時、さらっとできるのが天気の話。
「こっちは土砂降りだよ、そっちは?」
「まじ?めっちゃ晴れてる」
「えー、ズルくない?」
「はは、天気にズルいもなにもないだろ」
なぁんの中身も無いけど、自然と笑顔になれる。
それからちょこっとだけ話して通話を切ると、
すぐに、明日はどんな空かなぁと
期待しちゃうんだから不思議だ。
全然違う空なら、楽しくなる。
全く同じ空なら、嬉しくなる。
離れていると思わされても、空の話なら悲しくならない。
ホント、不思議。
▼空模様
『まばたきしないで鏡を見続けると、
自分がドロドロに溶けた姿が映るんだって』
噂好きの級友は、私が怖がりだと知りながら、
別れ際にそんな話をしてきた。
(サイアク、お父さん、お母さん、早く帰ってきてよ)
よりにもよって、今日は両親揃って帰りの遅い日。
手を洗うときも、化粧を落とすときも、
結った髪をほどいて梳かすときも、
どうしたって鏡を見る気にはなれなかった。
(お風呂、入らなくちゃ…)
備え付けの大きな鏡は絶対に見ない。
そう決めて、目をぎゅうっと瞑ってシャンプーして、
リンスして、悪戦苦闘しながら体の泡をすすぐ。
良かった。今日は鏡を見なくて済みそう。
湯船に浸かると安心して、気晴らしに持ち込んだ、
スマホをいじる指の動きも鈍くなる。
つい、ぼーっと液晶画面を眺めてしまった。
あ、失敗した。
暗転したガラスに映った、
ジブンの、…カオ 、ガ ………
▼鏡
「くよくよしたって始まらないよ!」
いったい何度自分に言っただろう。
辛い事があるたび、立ち直らなきゃって思うたび、
弱い心を捨てようとしたのだけれど…
けれど、その必要はないんだね。
下を向いた顔をどうにか上げて、
もう一回前に進もうとした時、
弱かった心が少しだけ成長している。
ほんのちょっぴり、ひとまわり強くなっている。
だから、これからもどうぞよろしく。
私のへなちょこ心。
▼いつまでも捨てられないもの
人生まだまだ道半ば。
それでも振り返ってみれば、
どうやらずいぶん長い道を歩いて来たみたい。
飛び上がるほど嬉しいこともあった、
震えるほど悔しいこともあった、
挫折と諦めを知り、自らの過ちによって
失意のどん底に落ちたこともある。
昔、とっても羨ましく見えたあの人なら、
もっとスマートに生きられたのかな?
…でもね、
『この人生を乗りこなせるのは、
やっぱり自分しかいない!』
と、思ったり…
これって誇らしさ?
▼誇らしさ
今夜、僕らが出会ったあの海に行くことは、
ふたりだけの秘密だった。
波打ち際で君と佇む。
目の前に広がる真っ黒な海は、まるで墨を垂らしたよう。
沖から吹く生暖かい潮風が、頬を撫で、髪を梳かす。
握りあった手の温もりだけが、僕にとってのすべてだった。
「どうして、一緒にいちゃいけないのかな」
足下でさらさらと砂がさらわていく。
俯いた君の顔は見えない。
「このまま溶けてしまえたらいいのに」
届かぬ願いは波にかき消され、闇夜の空に吸い込まれた。
▼夜の海