今夜、僕らが出会ったあの海に行くことは、
ふたりだけの秘密だった。
波打ち際で君と佇む。
目の前に広がる真っ黒な海は、まるで墨を垂らしたよう。
沖から吹く生暖かい潮風が、頬を撫で、髪を梳かす。
握りあった手の温もりだけが、僕にとってのすべてだった。
「どうして、一緒にいちゃいけないのかな」
足下でさらさらと砂がさらわていく。
俯いた君の顔は見えない。
「このまま溶けてしまえたらいいのに」
届かぬ願いは波にかき消され、闇夜の空に吸い込まれた。
▼夜の海
8/15/2022, 12:19:53 PM