『誰よりも』
皆さま今日も一日お疲れ様ですわ。
突然ですが、皆さまは「どすこい!ナスビくん」という作品をご存知かしら?月刊ゴロゴロコミックに連載されている超人気漫画ですわ。私もご愛読しております。
この作品には個性豊かな野菜がたくさん登場します。
今回は人気キャラの一人である
玉ねぎについてお話したいと思います。
玉ねぎは主人公ナスビくんの先輩で、彼が落ち込んでいる時やピンチの時に颯爽と駆けつけて助けてくれるイケメンベジタブルですわ。
「涙拭けよ」
「きつね色になるまで焦がしてくれよ」
彼のイカした台詞に落とされた読者も少なくないでしょう。
敵のイッヌ幹部やネッコ部長も倒してしまうほど
強くて、誰よりも頼もしかった玉ねぎ先輩が
まさか今週号で人間に食べられてしまうとは
夢にも思いませんでした。
私は今、大好きな紅茶が喉を通らないほど
落ち込んでおります。
私が胸を痛めているのは玉ねぎ先輩が
死んでしまった事だけではありません。
それは玉ねぎ先輩の最期の台詞にあります。
「みじん切りだけはやめてくれ。
せめてスライスしてくれ」
あの逞しかった玉ねぎ先輩が、こんな情けない言葉を
吐きながら散ってゆくとは、解釈違いですわ。
玉ねぎ先輩は決してこの様な事は言いません。
これは出版社と作者さまに物申すしか
ありませんわね。
だって私はこの作品を誰よりも愛しており、誰よりも理解しているのですから。ええ、作者さまよりも!
あら、セバスチャン。
何か言いたげなご様子ですわね?
ほほほ!私は止められませんわよ?
『この場所で』
今日はお城で舞踏会が行われております。
ただの舞踏会ではありません。
そう、ここは戦場。
王子の未来の花嫁候補を決める
女たちの戦いの場ですわ。
本日はいつも以上に気合いを入れてきました。
悪役令嬢パワーで王子を必ずこの手に落としてみせますわよ。おーほっほっほ!
ん、何やら周りが騒がしいですわね?
皆の視線の先を見てみると、遅れてやってきたのか
扉の前に何とも美しい娘が立っておりました。
雪のように白い肌と薔薇色の頬
愛らしい唇と宝石のような青い目
その瞳と同じ色のドレス
私は目を見開きました。
それは街で仲良くなった彼女だったのです。
どうしてこの場所に?!
私が見てきた彼女は村娘のような
質素でみすぼらしい出で立ちをしていました。
ところが今はどうでしょう?
絵本から飛び出してきた姫のように可憐な姿で
周囲の人々を魅了しているではありませんか!
王子は他のレディたちには目もくれずに、
一目散に彼女のところへ行きその手を取りました。
二人が並び立った時のオーラは周りの人々を
脇役に変えてしまうほどのものです。
私はその時ようやく気が付いたのです。
彼女が「メインヒロイン」なのだと。
『誰もがみんな』
誰もがみんな特別な存在になりたい
私はそうですわ
主人公が無双してモテモテになるお話は
昔から大人気でしょう?
みんな主人公に自分を重ねて気持ちよくなってますの
私もそうですわ
けれど現実は物語のように上手くはいかないものです
認められたい愛されたいと願って
自分を大きく見せたり相手を貶めたり嫉妬したり
雁字搦めになるばかりですわ
どうすれば愛されるようになるか調べてみたら
相手を特別扱いしてあげることが大切だと
そう本に書かれていました
私はどうかしら?
自分のことばかり気にして周りのものたちの尊さに
気付かぬまま過ごしているのではないかしら
もしこのまま無碍に扱えば
私は台本通り今までのツケが回ってきて
没落の道を辿る事となるでしょうね
人でも植物でも猫でも絵でも何でもいいです
慈しみ感謝し大切にする心を忘れずにいたいですわね
悪役令嬢にそんなものは似合わない?
確かにそうですわね
やっぱり今の発言はなかったことにします!
『花束』
今日は親しき友人たちに花束を贈る日だそうです。
ええ、私が勝手に決めました。
いつもお世話になっているセバスチャンには、
カモミールの花束を贈ることにしました。
花束を受け取ったセバスチャンは
その場に固まってしまいました。
「あ、いえ…このようなものをいただいたのは
初めてで、その、ありがとうございます」
戸惑っている様子でしたが嫌がる素振りは
見せなかったので、私はホッとしました。
クンクンと花束の匂いを嗅ぐ姿に笑みがこぼれます。
魔術師にはライラックの花束を贈りました。
「ありがとうございます。私もお嬢様へ日頃の感謝として、花束を用意したのでどうぞ受け取ってくださいませ」
そう言って黒薔薇の花束を差し出す魔術師。
「まあ、おかしな魔法でもかけられて
いないでしょうね?」
「安心してください。私の想いしか込められて
いませんから」
青い目を持つレディには、
勿忘草と白百合の花束を贈りました。
花束を受け取った彼女は私に抱きついてきました。
いきなり飛びかかってくるとはなんてはしたない子!
彼女は花が綻ぶような笑顔で言いました。
「大好きよ!」
私の完全なる自己満足のために作った記念日ですが、
皆様に喜んでいただけたのならなりよりですわ。
おーほっほっほ!
『どこにも書けないこと』
誰しもが他人には言えない性癖をひとつやふたつ
お持ちだと思います。私もですわ。
なのでここ(悪役令嬢の日記)に記すことにします。
私はただいま絶賛連載中の「どすこい!ナスビくん」という作品にどハマりしてますの。
バトルあり人情あり涙ありの熱いストーリーが繰り広げられている素晴らしい作品ですわ!
その作品で私は、
運命的な組み合わせを見つけたのです。
そう、『トマ斗×ナスビ』ですわ。
私はこの二人がどうなるか気になって気になって、
夜しか眠れない病にかかってしまいました。
誰かとこの想いを共有したいと昂っておりましたが、
悲しい事に「どすこい!ナスビくん」は世間ではあまり知られておらず、周りの者に聞いてもなんですそれは?という反応ばかりでした。
宮廷サロンの貴族たちにとっては他人のスキャンダルの方がよっぽど面白い娯楽なんですのね。
私は布教を諦めて、ひそやかに
推しを愛でようと決心しました。
とはいえ、この有り余る熱情を己の中にだけ
留めておくのは難しかったので、
セバスチャンに語ることにしました。
「トマ斗とナスビは同じ夏野菜村出身で、幼なじみなんですの。華やかで明るいトマ斗と地味で目立たないナスビくん。人気者のトマ斗にナスビは嫉妬して距離を置いてしまいますが、トマ斗が一番気にかけているのはナスビくんなのです。二人のすれ違いと絆を深めていく過程が本当にまじ尊いですわ。嗚呼、神に感謝。セバスチャン、聞いてます?」
「はあ」
私はセバスチャンの他に、以前街で仲良くなった美少女にも話を聞いてみることにしました。
すると彼女は青い目を輝かせながらこう答えました。
「あれ面白いよね!わたしもお気に入りなんだ」
まあ!ここにも「どすこい!ナスビくん」の
愛読者がいたとは!私が歓喜に震えていると、
「トマ斗×にんにくん最高だよね!」
と彼女は花が綻ぶ笑顔で言いました。
……。
……はい?
あなた、今なんておっしゃいました?
にんにく?あれはどんな食材にもいい顔するし○がる野郎ですわ。「トマ斗×ナスビ」しか勝たんですわ。
ええ、あなたの気持ちはよくわかりました。
よろしい、ならば戦争ですわ。