相棒のバイクと共に、無事街に着いた。
思った以上にまだ簡素なものしか置いてない。
ここから「これから」を創り出していくのだろう。
周りにいる自分と同じような人たちに挨拶をして、
自分の滞在する拠点を設定していく。
「ねぇ、聞いた?あの国、まだ続けていくみたいだよ」
「マジ?あんなボロボロになってるのに、よくやるね」
「俺は今の街を創ってる“あの人達”に救われたんだ、もうあの国には望みがない」
「残念だよな。昔はよく祭りをたくさんやってたのに、あのバカみたいなイベントがなくなっちまって寂しいよ」
「今ではあそこにはトップと大臣しかいないからな…未練はあったけど、仕方ない…」
「私だって、あの国が大好きだった…ただ、着いていく元気がなくなっちゃったから…」
街へ来て、色んな人から話を聞いた。
懐かしいと思う事、寂しいと思う気持ちが頭と心をない混ぜる。
ようやく慣れた煙草は、少し心を安らかにしてくれた。
「……楽しかったなぁ…頭空っぽにして、苦しくなるくらいに笑ってたのが嘘みたいだ」
なんて、老けたような台詞を独りごちた。
たった少しのすれ違いだったはずだ。
でも、致命的なズレだった。煙が顔のまわりにまとわりつく。
「………やっぱ煙たいなぁ…コレ、吸い終わったら…禁煙しよ」
煙のせいで視界が霞む。青空の下、ぽたりとTシャツにシミが出来た。
“奇跡は諦めないヤツの頭の上にしか降りてこない”
奇跡と聞くと、いつもこのセリフが浮かび上がる
いわゆる『奇跡』とは、
どんな事が起きても止まらず進む事、
そしてその先で微かな光を掴み取る事なのだろう
なかなか難しい注文だ
だからこそ『奇跡』は尊いものになる
それならもう一度を願うのは強欲なのか?
都合よく奇跡は起きるものでないし、
漫画やゲームのように起きなくても、
泣きながらでもボロボロになってでも進んでいけば、
もう一度別のかたちとして見つける事はできるはずだ
諦めなければ、どんな奴にも奇跡は起きる
しぶとく生きていくのが『奇跡への近道』だ
「げほっ、げほっ!うぇえ…よく吸うよなぁこんな煙ったいの」
初めて吸った煙草のケムリに咽せて涙が出た。恨めしげに睨んでも赤い点からは細い煙が立ち上るだけで、諦めたように空を見上げた。
現在時刻はたそがれ時、荒野の夜はすぐに冷えるから寝床選びが肝心だ。今回は運が良く、小さな無人小屋を見つけられた。久々に屋根と壁がある所で寝られるなんて贅沢だ、と相棒のバイクを撫でて喜んだ。
そんな感じにテンションが上がったからか、普段は吸いもしない煙草にチャレンジした結果がコレだ。憧れの人の仕草を真似したかったが為に買った煙草は、思いの外苦かった。
「街まであとどれくらいかな…」
もう一回、煙草を吸ってみる。今度は短く吸い込み、口に含んだ煙を細く吐き出した。苦い。でも、少しだけ近づけたような気がしないでもない、かも。
あの人もこんな感じだったのかな。
顔はイイのに声がうるさくて、金勘定はやたらと早い人だった。でも、誰よりも周りを照らしてくれた人だったな。
「…明日は少し早めに出るかぁ」
ぎゅ、と地面で火を押し潰し、水の入ったアルミ缶の中に放った。口直しにドロップ缶から飴を出して舐める。
それでも苦い味は、あの人のようにしばらく残っていた。
空が泣く
泣いた後はすっきりして泣き止む
また笑える幸せがやってくるさ