雨の色がカラフルだったら、
この憂鬱な天気にも、少しは歩み寄れるのかな。
もしそうなったらまずは透明なビニール傘を頭上に掲げて、
内側から上をそっと覗いてみたい。
色とりどりの雨粒がぽつりぽつりと天井を弾く様は、
きっときれいに違いないから。
プリズムの光を受けて歩くのも、たまには悪くないのかも。
どこまでも青々と広がる大地に柔らかい日差しが降り注いでいて、
色彩豊かな花々たちは、嬉しそうにその光を抱きしめている。
目を覚ました少年の目に飛び込んできたのは、そんな光景だった。
起き上がって周りを見渡してみても、どこまでも同じ風景が続いている。
少年は、こんなにきれいな景色を見たのは、はじめてだった。
しばらく辺りを眺めた少年は、今度はすぐそばで咲いている花に顔を近づけてみる。それらはまるで、自分に笑いかけているみたいだ。
少年は胸のあたりに、じわりと何かが広がっていくのを感じた。
その正体は果たして何なのか。
それを確かめるべく、少年はそのまま花をじっと見つめた。
向こうもまた、微笑みを称えながら少年を見つめ返す。
しかし、いくら待っても花が口を開くことはなく、その正体は分からない。
少年は、花の首に手を伸ばし、それを掴んでぐっと上に引き上げる。
花は微笑みを浮かべたまま、事切れてしまった。
少年は何度もその細い首を掴んでは、ぶつりとそれを千切っていく。
一本、二本、三本。
少年の手は止まらなかった。
それに呼応するかのようにして、胸に広がる何かも止まることはなく、どんどんと少年を侵食していった。
そうして黙々と動かしていた手は、しかし。不意にピタリと動きを止めた。
少年と花の隙間を駆け抜けるようにして、風がサァッと吹き抜けたのだ。
その勢いに圧されて、少年は腕をかざしてぎゅっと目をつむる。
風が過ぎ去ったあと、少年は恐る恐るまぶたを開けてうえを見上げた。
そこには、青い鳥がその羽根をいっぱいに広げて、空に吸い込まれていく様が見えた。
少年はじっと空を見つめる。
気づけばその目からは、一筋の涙がこぼれていた。
これからもずっと、私は言葉を書き続けていく。
不完全な自分を補うために、そして、救うために。
境界が曖昧で輪郭がぼやけたままの自分を生きるのではなく、
その存在を証明するためにもう嫌ってほど考えて考えて考えて、
泣きたくなってもペンをとってノートに向き合って、
脳汁がもう一滴も出ないくらいに言葉を絞りきって、
私という私を見せつけてやりたい。
ワンルームのベッドの上でうずくまるしかなかった自分に、
見せつけてやりたいんだ。
たまに、本当にたまーにだけど、ふとした時に、
“いままでコツコツと貯めてきたお金を、私が今欲しいもの全てにバーっと注ぎ込んで、ぽっくりと逝ってしまいたい”
そんな風に考えてしまうことがある。
目に付いた「欲しい」を色々と我慢して、
お財布のなかで、そして見知らぬどこかで眠っている、私のお金。
もしものため、将来のためにと、
そう短くはない年月をかけて蓄えてきた、割と大事なはずのお金。
けれど、「じゃあ実際にそれを全部使ってまで、何が欲しいの?」って聞かれても、なぜだか何にもしっくりこなくて。
結局のところ、私は何かを得たいわけじゃないし、
何かに消費したところで、代わりに満たされるものはきっと何もない。
多分、単純に、自分自身を放棄してしまいたいだけなのだ。
私はあと何回、この人とこうして話をすることが出来るのだろうか。
あと何回、この人と会うことが出来るのだろう。
あとどれくらい、同じ時間を過ごすことが出来るのだろう。
もしかしたら数十年後、あなたは老衰して、口を動かすことが難しくなってしまうかもしれない。
いつもゆっくりと頷きながら傾けてくれてた耳だって、上手く言葉をひろうことが出来なくなるかもしれない。
だから、今の内に。
後悔したくないから、きちんと私の心を伝えたい。
もっと、あなたの心と対話したい。
出来ればほんの少しでも、一緒にいたい。
けれど、何でだろうか。
そう思えば思うほど私の喉はきゅっと閉まって、何も言葉が出てこない。
ごめんなさい。もう少しだけ待っててね。