【題:ブランコ】
25歳の春先のことだった。青空と静寂に包まれたこの公園で、旧友と三年ごしに顔を会わせた。
「やあ、ずいぶんと会っていなかったな」あいつが声をかけてくる。
「大学卒業ぶりか?いきなり明日あの公園にこいだなんて呼び出して、何があったんだ」
彼の雰囲気は、記憶にあるものより大分と落ち着いている。お前まで遠くにいってしまったのか?
『ああ、その……相談があるんだ』
一呼吸おき、内容を話し出す。
『会社にいくのが、かなり憂鬱になってきててな。どうすればいいのか分からなくなって、とりあえずお前と話したらもしかしたら変わるかもって思って呼び出したんだ』
「なるほど。まあ暇だったからいいけど。どうして会社に行くことに気が乗らないんだ?」
『自分が使えない人間なんじゃ、って怖くなるんだ。同僚はみんなオレ以上に成果を挙げ続けていて。みんなの目が冷たいように感
じてしまって……』
「周りがどう思ってるのか分からなくて怖い、って感じか。会社の人から何か言われたりしたのか?」
『いや、言われてない。逆に誉めてもらえることもある。でも、その度にお世辞なんじゃないかって勘ぐってしまって。素直に言葉を受け取れない自分もだんだん嫌になってきて。自分はどうするのが正解なのか、分からなくなってきたんだ』
「ふうん……」
すこしばかり沈黙が続く。悩ませてしまっていると思うと、だんだん申し訳なくなってくる。
やっぱり大丈夫だと言おうか、
その時、強い強い風が吹いた。
「うお、強い。春一番だろうな。天気予報でそろそろ来るっつってたし。」
目の前の一人用ブランコが激しく揺れ動く。
「なあ、いきなりなんだが、」
そいつがそのブランコに指を指す。
「そこのブランコは今、どんな気持ちだと思う?悲しいとか、楽しいとか」
『気持ち?いきなりどうした。まあそうだな、風に吹かれて悲しいとか、ひとりぼっちで寂しい、とかじゃないか』
正直に話す。
「へえ、俺は違うふうに見えたな。春の訪れを喜び、祝っているようだと思った」
ああ、たしかに――とたんにブランコは、オレの中で楽しく振る舞いだした。
はは、なんだかこっちまで楽しくなってくる。
「……きっと、物事なんて見方によってころころ変わるんだ。だから、お前の現状への捉え方にも正解なんてない」
そいつがじっと、ブランコを見ながら話す。
「まあでも、だったらさ、自分にとって楽しくて、嬉しい捉え方をしてみたらどうだ?」
『楽しくて、嬉しい……』
「そっちの方が、ずっと世界は輝いて見えるぞ。あの風に吹かれたブランコですら、貴重なお宝のように思える。なあ、どうだ?いまからお宝さがしに、町探検に行ってみないか?」
立ち上がり、オレへと手を伸ばす。
こいつの手と、舞い上がるように踊るブランコが、オレを別の世界へと誘う。
ああ、すっごくワクワクしてきた。
パチリ
その手をとる。
瞬間、静かだった公園を、暖かな春の気配が包み込んだ。
【題:旅路の果て】
旅の終わりとは、いったい何処なんだろう?
神様に聞いてみても分からないし、インターネットにだって、旅のおすすめスポットは載ってても、旅を終わらせるべき場所とか、時期だなんてかかれてない。
なんでどこにも情報がないんだろう。
きっと、旅路の果てだなんて、誰の印象にも残らないほどにありふれた場所なのだ。
たどり着いた人はみんな、『え~これが旅路の果て?これなら旅の途中に見たあのモニュメントとか、山から見た夜明けの景色の方がずっときれいで価値のあるものだったじゃん』と少しの不満を抱いたことだろう。
旅し始めたことを後悔したりもするんだろうか。
いや、そうじゃないと信じたい。
かの果ては、今までの旅路をゆったりと振り替えれる安寧の地なんだろうな。
先人たちはそこで今まで見た景色や自分のおかした失敗をもう一度味わって、くだらない旅だったな、と辛かったこと含めて全部を笑い飛ばしてしまうんだろう。
なんだかんだ、いい旅だったんじゃないかな、って。
今までがむしゃらに進み続けてきてじっくり自分のことを見直せなかったぶん、果てで積み重ねたものに浸ったことだろう。
まあでも、本当にそうなのかは勿論不明だ。果てまでたどり着いたものじゃないと真偽は分からない。
だから、わたしは進み続けるんだ。
先人たちと同じように、悩んで、苦しんで、迷って、たまに美しいものを見つけて、真実にたどり着けた気分を得て、裏切られて、それでも自分を鼓舞して、旅を終わらせることなく進むのだ。
さあ、旅人(わたし)よ、旅を続けろ!
【題:あなたに届けたい】
――助けて
後ろに小さく『。』を書き、自分の吐露を終わらせる
文字列なんかよりも、震えた筆跡が今の自分の心情を語っていて、言葉にこめた想いなんてちっぽけなんだと理解する
あの子は今大変なんだ
私が支えてあげないと
私の弱すぎる心の声なんて、届いてもあの子の重りにしかならない
だから紙に書いて、くしゃくしゃに崩して、ポイって捨てるんだ
ゴミ箱に向かって気持ちを投げる
ぽとり、ゴミ箱の横に落っこちた
ああ、面倒だな
立ち上がる――その時に着信音が響いた
あの子からの電話だ
諦めて、携帯電話を手に取る
咳払いをして、高めの声をひとつだしてみる
よかった、明るい声色が出た
確認できたら電話に出る
そして、なんでもないように演じるの
『もしもし、今度はなに?また一生に一度のお願い事でもあるの?』
ほら、こうすれば全部いつもどおり
あの子のほほえむ声が聞こえる
よかった、前まで笑ってくれなかったから
うれしいな、しあわせだな
――気づいて
ああ、また要らない感情ができてしまった
あとできちんと捨てておこう。