私はどこにでもいる
オタクと呼ばれる者である
名前はあるが名乗る程ではない
年に四回放送が切り替わる
アニメをチェックし
読んでいる漫画や小説は
新刊日にすぐ購入
特典店舗や初版限定版があるかを
確認するのも忘れない
好きな作品や推しの円盤も
連動特典やイベント抽選などで
積む必要がある場合は
同じものを何枚買うのもいとわない
ゲームのガチャも
好きなキャラの
限定カードが出ようものなら
課金の誘惑に抗うも
結局抗えない
グッズを買おうとするも
立ちはだかる
ランダム商法に毎度憤るも
少ない出費で好きなキャラや推しが
来た時のドーパミンはたまらない
コラボカフェや舞台の
抽選戦争に打ち勝ち
現地で推しを摂取する喜び
こうして羅列してみると
当たり前とはと哲学したくなる
【私の当たり前】
眼鏡を外すと
世界がぼやける
輪郭が曖昧なまま
流れる景色を追いかける
蝋燭のように揺らぐ
明かりがもどかしくも暖かい
【街の明かり】
「そういえば今日は七夕だな」
ふと向かいの席に座っている同居人が、何の脈絡なく呟いた。
「何だよ急に」
「や、今日は7月7日だなって」
「あ、今日なんだ。すっかり忘れていたわ」
「言うて俺も今気づいたんだけどな」
今日そんで晴れているし、と、横にある窓へ視線を移す。僕も同居人に倣って窓を見た。快晴も快晴。気温も三〇度を超える夏日である。
「七夕の日が晴れって珍しいよね」
「確かに。大体雨なイメージ」
「時期が梅雨と被るからねぇ」
「てかさ、彦星と織姫が一年に一度しか会えないって言う日に、俺たちはというと短冊に願いを書くとかなかなかに傲慢な日ではあるよな」
「身の蓋もないことを…」
「彦星も彦星で、会えないんだったら川を泳ぐとかガッツを見せろって感じよな。ヒロインに可哀想な思いをさすなって」
「ロマンなんだよきっと。あと織姫をヒロインって略してあげないで。まぁ二人に関しては自業自得な部分があるから。仕事そっちのけでリア充してたらしいし」
「お前もリア充とか一言で片付けんなし」
しかし折角行事を思い出したんだから、何かやっておくか、と同居人が言い出す。
「短冊とか今から用意するか?」
「いや良いよ別に。竹とかどうするの」
「お前が育てている苗木で良いじゃん」
「僕の可愛がってる苗木は七夕の木じゃありません」
「ちえ」
「まぁ、七夕にちなんだ夕飯くらいなら考えても良いかな。星型のフルーツポンチとか」
「うわ懐かしいフルーツポンチ。給食以来食ってないわ」
「今食べると甘過ぎるかな」
「まぁ偶には良いんじゃね」
今日の夕飯は素麺かな、と買い物メモを取り出しながら、僕はフルーツの果物は何にするか考えるのであった。【七夕】
空の上には無数の金平糖
見上げながら手をかざすと
手のひらに収まりそう
勿論 収まりなんてしないから
指でつまんだふりをしてみる
どこかで金平糖が増え
そして消えてゆくのだろう
そして地球も
金平糖のひとつなのだろう
【星空】
命は短し恋せよ乙女、か
確かに人間の生命は短い
長くて100年ってところ
私みたいに
何千年も生きられないから
愛おしい
私が今まで見下ろし見ていた
数々の告白や逢瀬などは
もうすっかり過去の出来事になり
土へ還ってしまった
いや 今は土へ還らず
灰になって天へ昇るのだったっけ
風習がころころ変わるのも大変ね
思えば 色々な恋模様があった
華やかであったり
いじらしかったり
切なかったり
あの時の皆はもういないけど
足跡は確かに繋がっている
人は一人の生命は儚いけれど
全体の歩みは著しい
少年と少女が
四角い薄い板を持って
楽しそうにしている
100年前とは 全然違う
でも 似たような光景もある
今 この瞬間に
少年が少女へ
想いを伝えたそうにしている
その度に私は
風に花びらをのせて
想いが実るようにと 祈る
それが私
花の神の
存在理由だから
ある街の話。
この街には神や妖怪といった所謂「人ならざるモノ」が存在していた。霊感のある者は勿論、とりわけ霊感の無い人間も神や妖怪の存在を認識しており、図書館や公民館で閲覧出来る郷土史にもたびたび神妖が登場する。
樹齢は推定千年ほど。
傍で告白をすると、春でなくても桜の花びらが舞い、告白が成功するという伝説。
そんな樹に宿る神の、独り言。
【神様だけが知っている】