しののめ

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     命は短し恋せよ乙女、か
     確かに人間の生命は短い
     長くて100年ってところ
     私みたいに
     何千年も生きられないから
     愛おしい

     私が今まで見下ろし見ていた
     数々の告白や逢瀬などは
     もうすっかり過去の出来事になり
     土へ還ってしまった
     いや 今は土へ還らず
     灰になって天へ昇るのだったっけ
     風習がころころ変わるのも大変ね

     思えば 色々な恋模様があった
     華やかであったり
     いじらしかったり
     切なかったり
     あの時の皆はもういないけど
     足跡は確かに繋がっている
     人は一人の生命は儚いけれど
     全体の歩みは著しい

     少年と少女が
     四角い薄い板を持って
     楽しそうにしている
     100年前とは 全然違う

     でも 似たような光景もある
     今 この瞬間に
     少年が少女へ
     想いを伝えたそうにしている

     その度に私は
     風に花びらをのせて
     想いが実るようにと 祈る

     それが私
     花の神の
     存在理由だから


 ある街の話。
 この街には神や妖怪といった所謂「人ならざるモノ」が存在していた。霊感のある者は勿論、とりわけ霊感の無い人間も神や妖怪の存在を認識しており、図書館や公民館で閲覧出来る郷土史にもたびたび神妖が登場する。

 樹齢は推定千年ほど。
 傍で告白をすると、春でなくても桜の花びらが舞い、告白が成功するという伝説。

 そんな樹に宿る神の、独り言。

          【神様だけが知っている】

7/4/2024, 11:39:49 AM