はなればなれ )
おはようなんて言っても、貴方は返事はしてくれないし、おやすみって言っても返事はしてくれなかった。
メールは来ないし、電話をしても出てはくれない。
「また、会いにくるよ。」
は、嘘だったの?
ヒールはきついし、もうなにもかも嫌だ。
あたし、遊ばれてたのかな。あほらし。
でも、貴方とのトークは毎日見にきちゃうし、電話も毎日かけてしまう。
いつか、出てくれると思って。でも、いつかけてもでない。
他の人に恋しようとしても、貴方が毎日頭の中にいる。いつか忘れられると思っても、いっつも貴方は私の頭の中にいる。
寝るときに、貴方の
──大好きだよ、○○。
が駆け巡る。
私も、大好きだったよ。
永遠に )
風呂に入ると、シャンプーが空になっていた。仕方なく、一回分に間に合う程度の水を足し、力一杯振ると、半透明のボトルには、小さなアブクで満たされた。
水で薄めたシャンプーは、べちゃべちゃで、シャンプーとは程遠い物だった。
永遠を誓った相手は、いびきをかきながらベットで眠っている。
赤子の産声が聞こえ、髪の毛が濡れながらも、赤子の元にかけつける。
「よしよ〜し、お母さんが、いるからね…お母さんが…、」
涙が溢れ出して、止まらなくなった。きっと、疲れているんだ。最初こそは、「二人でこの子を育てていこう!」と言ってくれた。でも、段々と私負担になっていった。手伝ってよ、と言うと、「俺働いてるし、休みの日くらい寝かせろ。」だと。はあ?こっちも働いとるわ。お前の給料じゃ家計が成り立たないからこっちも働いとるんだろうが。ご飯を作っても、飲み会、残業、食欲ない、美味しくない、などと文句を言って食べない。もう、いっそのこと殺してしまおうか。永遠に、眠っていればいい。
「朝太、ごめんね。お母さん、お父さんとお祖母ちゃんのところへ、行くね。」
私の顔に生暖かい血が飛び散った。息子が、泣き出す。なんで、なんでと呪文のように唱えている夫の背中に刃物を突き立てた。白いシャツに、赤い血が染みる。
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「で、動機はなんなんですか?息子がいるのに、なぜ父親を殺したんですか?」
「……夫が、鬱陶しかったからです。」
「ただ、それだけ?」
「はい、それだけ。」
理想郷 )
「ユートピア、ってなんだと思う?」
委員会活動の時、友人がそう問いかけてきた。
「…知らない。調べたら?」
ユートピアなんか、本を漁ったらでてくるだろう。と、思いそこらへんの本を手に取る。
「違う、夏美が思うユートピア。」
私が思うユートピア?考えれば考えるほどよくわからない。
図書第二室には、エアコンが無く、じわりと汗が浮き出てくる。
「なにも考えないで、楽して生きれる社会、とか?」
そんな社会、あったらいいのに。
「俺はー、俺はね、なんなんだろうなユートピアって。」
浮き出てきた汗を手の甲で、拭き取り本を片付ける。
「ユートピアとかどうでもいいから、早く片付けてよ。」
ユートピア、ね。ユートピア、か。
ユートピアって、なんなんだろう
どこまでも続く青い空 )
窓に目をやると青く、雲一個ない空が広がっていた。
布団に寝転がって、また一日が終わる。
なんもやっていない罪悪感に、疲れてしまった。
カーテンを締めて、窓から背を向ける。
ドアをノックされ、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「まだ学校行けない?」
うるさい、うるさいうるさいうるさい
誰も分かってくれていない。
なんで、わかんないの?私は学校から逃げてるって言うのに、なんで学校に行かせようとするの?
イミ、わかんない。
布団に潜って周りの音から逃げるように耳を塞いだ。
私も青色の空みたいになれたらな。
衣替え )
やっと秋だ。
ずっと着たかった淡い赤色のコートをクローゼットから出す。
ちょっぴり、埃が被っている。
埃をはたく。
窓から微かに金木犀の香りが漂ってくる。
朱色の、重いカーテンをスライドさせて、外の景色を見えないように、なにかから逃げるように締めた。
今、お腹の中に命が宿っている。
文面から見ると、幸せそうに見えるが、全然そんなことない。
相手は他の家族がいるサラリーマンだ。
わかってて、関係を持った私も悪い。けど、ここまで好きになって、引き下がれなかった。
最低だ、なんで私はこんなことをしてしまったのだろう。
目頭が熱くなって、涙が溢れ出してくる。
手の甲で涙を拭い、ベットに倒れ込んだ。
誰か、助けて。
孤独感とか、色々が混ざり合う不思議な感覚に陥った。
夏と同時に、私もいなくなっちゃえばいいのに。