オレの相棒は、気づくとどこかに行っている。
隣にいると思っていたのに、少し目を離しただけで姿が消えていた、なんてことが何度もある。
まるで見えない羽根があるみたいだ。
背中に生えた希薄な存在を静かに羽ばたかせて、気配だけを残して、軽々と遠くに飛んでいって、
それで、
オレが届かないところまで、
待って。
嫌だ、
行かないで、
待っ
「…どうした、?」
「え」
気づけば、相棒の手を握っていた。
「…」
ちゃんと隣に、いる。
「……どこにも、行かないよな?」
思わず呟いた。
「は…」
「絶対オレんとこに戻ってくるよな?」
「………」
「な…?」
相棒は戸惑った顔をしていたが、やがて目を伏せ、呟いた。
「……ま、お前の頼みならな」
「…………ほんとに?」
「なんで今嘘つく必要があるんだよ」
「…じゃ、約束」
そう言って小指を差し出すと、相棒は柔らかく微笑み、そっと指を絡めてきた。
大きくて透明な羽根に包まれたみたいに、空気がぬくもった。
【透明な羽根】
こたつ、毛布、コート、手袋、マフラー。
冬を乗り越えるため、今年もいろんなものを引っ張り出す。
うーん、でも何か足りない。
これよりもずっと、ずーっとあったかいものが、あるはず。
ぼんやり思いながら、さっき出したばかりのこたつ布団に潜っていると、アイツが隣にもそもそと入ってきて、当然のように俺に抱きついてきた。
あ、これだ。
【冬支度】
小さな花から放たれる甘い香り。
それを肺に取り込みながら歩いていたら、小さなオレンジ色が、ツンツン跳ねたアイツの金髪にぽとりと落ちた。
取ろうと手を伸ばしたタイミングでアイツが振り向くから、その拍子にキンモクセイの花が余計に髪に入り込んでしまった。
「おいちょっと待て」
「えなに?」
「キンモクセイが」
「あ?」
丸い頭を引っ付かんで、髪の間をまさぐる。
「んわぁぁくすぐってぇ」
変な声をあげるアイツを無視してもしゃもしゃ掻き回した。
「っと…取れた」
「わ、キンモクセイだ」
「だから言ったじゃねえか」
「なんだそーゆーことかぁ」
指につまんだキンモクセイを、…落とすのも申し訳ないので、そばにあった塀の上に乗せる。
直後、ゆるい風にさらわれ、甘い香りの尾を引きながら向こうの家の庭に落ちた。
それを見届けてからアイツのほうを向くと、アイツはそわそわしながら、
「てっきり、頭撫でられたのかと」
と細々とした声で呟いた。
「……撫でられたかったのか?」
「や、別に、そんな、こと、ないけど…、」
たどたどしく答えつつ、アイツの目は物欲しそうだ。
「…」
めちゃくちゃに毛先の遊んだままの頭に、そっと手を置く。
途端に明るくなるアイツの顔。
脳裏に浮かんだ「かわいい」は言葉にせず、ただわしゃわしゃとアイツの髪を撫でた。
【キンモクセイ】
相棒は、愛する人のために遠くへ旅立った。
オレに何も知らせずに。
相棒は戻ってきた。
逝きかけの体一つ残して。
【行かないでと、願ったのに】
ただ、アイツの隣にいて、
一緒に喜んで、
一緒に泣いて、
一緒に苦しんで、
一緒に生きて、生きて、生きて、
【そして、】
──────
同時に死ねたらいいな。