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小さな花から放たれる甘い香り。
それを肺に取り込みながら歩いていたら、小さなオレンジ色が、ツンツン跳ねたアイツの金髪にぽとりと落ちた。
取ろうと手を伸ばしたタイミングでアイツが振り向くから、その拍子にキンモクセイの花が余計に髪に入り込んでしまった。

「おいちょっと待て」
「えなに?」
「キンモクセイが」
「あ?」

丸い頭を引っ付かんで、髪の間をまさぐる。
「んわぁぁくすぐってぇ」
変な声をあげるアイツを無視してもしゃもしゃ掻き回した。


「っと…取れた」
「わ、キンモクセイだ」
「だから言ったじゃねえか」
「なんだそーゆーことかぁ」

指につまんだキンモクセイを、…落とすのも申し訳ないので、そばにあった塀の上に乗せる。
直後、ゆるい風にさらわれ、甘い香りの尾を引きながら向こうの家の庭に落ちた。
それを見届けてからアイツのほうを向くと、アイツはそわそわしながら、

「てっきり、頭撫でられたのかと」
と細々とした声で呟いた。



「……撫でられたかったのか?」
「や、別に、そんな、こと、ないけど…、」
たどたどしく答えつつ、アイツの目は物欲しそうだ。


「…」
めちゃくちゃに毛先の遊んだままの頭に、そっと手を置く。
途端に明るくなるアイツの顔。
脳裏に浮かんだ「かわいい」は言葉にせず、ただわしゃわしゃとアイツの髪を撫でた。



【キンモクセイ】

11/4/2025, 2:31:44 PM