コーヒー淹れてきたぞ。
今日はお前が好きなブレンドのやつ。
オレには理解できねえけどな、こんな苦いのが好きなんて。
…いや、コーヒーなんて全部苦いから味の区別なんてついてねえけど。なんかこれは特に苦い気がするだけ。
さ、今日こそはこのコーヒーが冷めるまでに目ぇ覚ましてもらうぞ。
じゃないと飲んじまうからな。
目の前で好物取られんの嫌だろ。
だから早く、目を、
……
………………
………………………………なんて、無理だよな。
こんなことしてもお前は目覚めたりなんかしない。
分かってる、分かってるけど、なんかの拍子に生き返ったりしねえかって、どっかで期待しちまってんだよ。
そん時は、オレが隣にいたいって。
ごめん。こんなオレ、見たくないよな。
オレだってやだよ、こんなの。
だから、もう「こんなオレ」でいなくてよくなるように、早く起きてくれよ。
【コーヒーが冷めないうちに】
何もかも違うはずなのに、こことは違う世界から来た「アイツ」は、この世界にいるアイツと同じなんだ。
あっちの世界にも「オレ」がいることも聞いた。やっぱりこの世界のオレとは違うらしいが。
違うのに、同じ。
だから、「アイツ」はあっちの世界の「オレ」も、この世界のオレも、平等に大事にしてくれた。
というより、あっちの世界の「オレ」が大事だから、それとほぼ同じであるオレのことも大事にした、と言ったほうがいいか。
……できれば、避けたかったのに。
結局オレは、まんまと絆された。
この世界のアイツと、あっちの世界の「アイツ」とに向ける気持ちの区別がつかなくなってしまった。
違う。同じだけど、違うんだ。
オレが好きなのは、この世界のアイツであるべきなのに。
あっちの世界の「アイツ」には、あっちの世界の「オレ」がいるのに。
なんで、あっちの世界の「アイツ」のことまで。
終わりだ、と思った。
【パラレルワールド】
逃げよう。
【僕と一緒に】
______
迷わず手を取ってしまいたくなるような、眩しい姿で。
『おはよう』とか『おやすみ』とか『だいすき』とか。
他愛もないことを、色々送ってみる。
『もう昼だぞ』
『明日は早起きしろよ』
『なんだよ突然』
そんな返事がくることを、勝手に期待して。
既読なんかつくわけないって、分かってるのに。
だって。
オレがメッセージを送ってる相手は、もうずっと目を覚まさないままなんだから。
『オレが絶対、生き返らせるから
待ってろよ』
【既読がつかないメッセージ】
Q.ある存在の全てが愛おしくて、側にいたいと 思う気持ち、生涯をかけて守りたいという気持ちを何と言うか、「恋」以外で説明しなさい。
A.
【答えは、まだ】