精一杯の背伸びをする。
足の接地面積が一番小さくなるまで。
手を伸ばす。
少しでも上まで届くように。
声を漏らす。
限界まで伸ばした背に、もう少しだけ負荷をかけるように。
もう無理、と身体が言うまで、背伸びを続ける。
もう無理、と身体が言っても、仕事を終えるまで背伸びを続ける。
そうして、できる限りで綺麗にした黒板。
背伸びをやめると同時に、どっと疲れが押し寄せる。
そんな自分を見て、「かわいい」とはしゃぐ声もあり、「ぶりっ子」と陰口を言う声もあり。
好きでこうなってるわけじゃない。
飾っているわけでもない。
なのに勝手にやいやい言ってる周りが憎らしい。
まだ残ってるぞ、なんて小馬鹿にしながら軽々と一番上を消してみせる、背の高いアイツも憎らしい。
仕事返せ、と黒板消しを奪おうと格闘する。
アイツはすんなり自分に黒板消しを渡したと思ったら、自分を黒板の一番上に届くところまで抱き上げた。
クラス中が騒ぐ。
…あー、ホントに、憎らしい。
【届かない……】
木の葉に細かく刻まれた陽の光。
それが創り出す芸術を、人は木漏れ日と呼ぶ。
その下に佇むアイツ。
風が吹いて、光が散らばる。
それに照らされた明るい色の髪が、肌が、光る。
「何突っ立ってんだ?暑いだろ、こっちこいよ」
こちらに気がついたアイツが、手招きをしながら呼び掛けてくる。
確かに暑いが、あの木漏れ日の下に入る気にはなれなかった。
あの光る芸術作品を、汚したくなかった。
けれどアイツは自分がそんなことを考えているとは知らない。不思議そうな顔をしながら、動かない自分をさらに呼ぶ。
しぶしぶ、木漏れ日の下に入った。
アイツから少し離れたところに立つ。
そうしたら、アイツのほうから寄ってきて、腕を引かれた。
「んな遠いとこ行くなよ、避けてんのか?」
そう言いながら、さっきアイツがいたところまで引っ張られる。
そういうわけじゃない、と返すと、ならいいけど、とアイツは子供っぽい笑みをこぼした。
その素朴なかわいらしさといったら。
なんと表現していいか分からない。
けれど、こうやって自分がそばにいても、この芸術作品は汚れていない。
それが分かったことに少し安心して、アイツの隣で風を感じた。
【木漏れ日】
知ってるよ。
お前の目が、俺を見てないこと。
正確には、俺の向こう側を、俺越しに見ていること。
気づいてないと思ってただろうけど、分かりやすすぎんぞ。
だって、俺はお前のことちゃんと見てるから。
最初は俺のこと嫌いになったのかと思ったけど、別にそんなことなさそうだし、嫌いだったらそもそも一緒になんているはずないから、全然、わかんねえんだよな。
だから聞くわ。
なんで、
なんでこっち見ねえの。
なんで俺のこと、みてくれねえの?
なあ、なんで?
【すれ違う瞳】
_____
A.好きだから。明らかに態度を変えると怪しまれるが、ちゃんと見てしまうと、気持ちが抑えられなくなりそうだったから、見ているようで見ていないふりをした。
アイツに出逢って初めて、心が動いた。
初めて、誰かの顔に釘付けになった。
初めて、一人の人間の言動に一喜一憂した。
初めて、幼稚な嫉妬をした。
初めて、人に未練を残した。
初めて、手放せない愛を知った。
初めて、忘れたくても忘れられない愛を知った。
初めて、愛に苦しんで泣いた。
諦められなかった。
一方通行の気持ちだと、
返ってくることはないと、分かっていたのに。
それは、あまりに青かった。
青く、苦しい春だった。
【青い青い】
φ(..)
【風と】