風景に溶け込みすぎると、あるはずのものが見つからなくなることがある。
それを聞いて一番に頭に浮かんだのは、アイツの存在だった。
アイツとは、いつも、どこでも一緒だった。
アイツがいる風景が、オレの日常だった。
だから、不安になった。
アイツがこれ以上、オレの日常の風景に溶け込んでしまったら、いつかオレは、アイツを見つけられなくなるんじゃないかと。
それから。
アイツといるとき、オレはアイツの手を繋ぐようになった。
その存在を、ちゃんと判っていられるように。
【風景】
現実のストレスが重なり、ヤケクソになって布団を被る夜。
【夢へ!】
「なぜあなたは、ずっとそこにいるの?」
「約束したから」
「どんな約束?」
「またアイツと逢えるまで、ここで待つ約束」
「アイツ、が誰かはしらないけど、でももう何十年もここにいるってことは、まだ果たされてないんだ」
「ああ」
「諦めたいと思わないの?」
「何度も思ったよ、でも離れるわけにはいかない。
もし俺が去ったあとにアイツが来たら、アイツに針千本飲まされるから」
「ふーん」
「まあ、俺もアイツに針飲ませるつもりだけど」
「約束破ってないのに?」
「待たせすぎた罰」
「怖いねえ」
【遠い約束】
この街に、新しい施設ができたらしい。
調べてみたらなかなか興味深かったので、スマホの地図アプリで場所を確認していると、
アイツがスマホの側面を両手ではさんできて、
「地ー図バーガー、なんつって」
「…」
「……なんか反応しろよ」
「かわいかった」
「…っそうじゃなくてさあ……」
「でも嫌じゃないだろ?」
「うん」
【新しい地図】
「はいこれ」
「ん、ありがと。…この〔好き〕、ちっちゃいね。とりあえず受け止……待って、今までもらった中で一番重い…」
「ふふん、結構頑張ったんだよ?詰めるの」
「ホントだ…がっかりしてすみません…」
「見かけで判断しちゃだめだよ」
「そうね……じゃ、これお返しの〔好き〕」
「ありがと、…うおでっか…え、ねえちょっと、今までずっとこんなん抱えてたの?あげたのより重いじゃん」
「これは見かけで判断していいやつだよね」
「いんや、これも持つまでは中身の重さ分からないから」
「そっかあ」
【好きだよ】
______
〔好き〕という言葉の入れ物に、めいっぱいの気持ちを詰めて交換する二人。
量より質的な話。