雨と雷の音が部屋の中にまで入ってくる。
その音のお陰で布団に入っても眠れずにいると、電話がかかってきた。こんな時間に誰だと思ったら、つい数時間前に帰っていったばかりの彼氏だった。
「眠れない」というので、少し話をした。
ぽつぽつと他愛のない会話をする。しかし外が光る度に、その会話は中断される。
そういえばアイツ、雷苦手だっけ。おそらく電話の向こうでは耳を塞いでいるんだろう。
電話の時間が二時間を超え、少し眠くなってきたところで、会話も途切れる。
寝落ちしたのかと思って切ろうとすると、電話口から微かに鼻をすする音が聞こえた。
どうした、と声をかけるも返事がない。もう一度声をかけようとしたら、
「会いたい」
涙声の、甘えるような小さな声が静かな部屋に溶けた。
その直後、外がひときわ眩しく光って、すぐに雷の音が聞こえる。
…胸が苦しい。愛しさが募る。
さっきの声につられて出そうになる涙をぐっとこらえて、「今から行く」とだけ伝えて、急いで上着と傘だけ持って家を出る。
あっちに着いたら、めいっぱい抱き締めてやろう。
それで、アイツの目から流れる雨が、少しは止むといいけど。
そんなことを思いながら、全速力で走った。
【降り止まない雨】
「また明日」
週末のデート。
そう言って別れる瞬間が、一番不安だった。
「明日」が、いつか来なくなるかも知れない、別れた後に何かあるかも知れないと考えてしまう。
もしそれが今日だったら、と。
会えなくなるのが、怖くて仕方がなかった。
だから、「また明日」を言われる前に、一緒に暮らさないかと提案してみた。
言った瞬間は変な空気が流れたが、その翌日から、「また明日」の後に別れることはなくなった。
【また明日】
透明。
あらゆる他の色を遮らず、存在しているのかしていないのかすら分からない色。
そもそも透明は色なのだろうか。
透明とはなんなのだろうか。
見える透明と見えない透明があるのはなぜだろうか。
宇宙ができる前の世界は、透明だったのだろうか。
透明という概念はいつからあるのだろうか。
答えの出ないことを考えるのはやめよう。
あなたが流す透明の涙が何よりも綺麗だから、なんだっていいじゃないか。
【透明】
「俺より先に死ぬなよ」
「なんだよいきなり」
「思ったこと言っただけだよ」
「あー?ますますわかんねえし」
「いーんだよそのまんま受け取ってくれりゃ」
「はあ…」
今思えばあの会話、フラグだったんだな、
と、他人事のように思う。
件の会話をした、この世で一番大切だった人間は、自分をかばって、自分の目の前で死んだ。
悲しいはずなのに、涙一つ出ない。
ぐちゃぐちゃにかき回されて狂いそうな頭は、ただただ虚無に押さえつけられていて。
(嘘だ)
屍から一歩後ずさったとき、突然視界と思考がシャットダウンされた。
次に目覚めた時には、あの、死んだ男の記憶は一切無くなっていた。
【突然の別れ】
真夜中になると、無性に会いたくなる人がいる。
夕方、帰り道で別れたばかりのアイツ。
なんでかは知らない。会いたいから会いたい。それだけ。
けど、突然会いに行っても、どうせ迷惑がられて追い返されるだけだから。
朝が来ればまた会えると言い聞かせて、今日も独り寂しく眠りについた。
【真夜中】