「これからも、ずっと、一緒に生きていきたい」
そう言うには、ぼくたちの関係は遠すぎて。
でも、この想いを断ち切ることができないほどには、ぼくたちの関係は近すぎた。
お互いに唯一の親友。
いつも一緒にいるし、お互いの隣は譲れない。
けど、それはあくまで友達としての態度で。
慕ってるのは、ぼくだけ。
見てれば分かる。
苦しいな。
【これからも、ずっと】
赤い陽が、沈んでいく。
ゆっくり、ゆっくり。
僕の足は、早くなる。
どんどん、どんどん。
足が早くなると、気持ちが焦る。気持ちが焦ると、足はまた早くなる。
あの太陽のように、ゆっくり、のんびり生きたい。そう思う隙すらない現代。
でも宇宙規模で見たら、太陽も毎日重労働してるから、もしかしたら現代が宇宙に追い付いてきたのかも。
嫌だなあ、そうだとしたら。
そんな答えのないことを考えながらもせかせかと動き続ける僕の足。
この陽が沈みきる前に、家に帰らないと。
【沈む夕日】
俺の恋人は、人の視線が苦手だ。
人に見られるのはもちろん、人と目を合わせることが大の苦手で、見透かされているとか、ネガティブな印象を持たれているような感じがして、すぐに目をそらしてしまうらしい。
俺も、出会って初めのころは本当に目を合わせられることはなく、対面で話していない時も顔はずっと下を向いていた。
でも、半ば強引にだったが交際を初めて、一緒に過ごすうちに、少しずつだが、俺と一瞬目が合うようになったり、ちゃんと顔が前を向いたりするようになっていった。
それを褒めると、「まだお前だけだよ」と控えめに言われた。何度も褒めても、返答は同じだった。
そんな恋人が、今日は長いこと俺と目を合わせていた。「今日は長いな」とだいぶ遠回しに褒めると、「…お前だけだよ」とはにかみながら言われた。
「…」
驚いて目を見開く。
「まだ」が抜けた。
気づかぬうちに、この男の唯一になっていたという、些細だが大きな変化が、堪らなく嬉しかった。
きっとこの調子で克服していけば、この「唯一」はすぐに終わるだろう。
けれど今だけはと、この気持ちが伝わるように、何よりも愛おしいその瞳に、瞼越しにそっと唇を落とした。
【君の目を見つめると】
それでいい。
と、妥協して生きてきた。
だって、それ「が」いいと言えるほど強く求めたものがなかったから。
でも、あなただけは、妥協できない。
「側にいられれば、それでいい」なんてことも言えなくなるほど、惹かれてしまったから。
この先の長い年月を共にするなら、あなた「が」いいわ。
【それでいい】
「『大嫌い』」
「ありがとう」
「なんで」
「エイプリルフール」
「ぐっ…!!バレてたか」
「世界中が知ってるわエイプリルフールなんて」
「だよな」
「うん」
「じゃあ今のはこの一大イベントでついた嘘ってことで」
「ドヤんな。…あでも、今午後だから嘘にならんくね?」
「え、そのルール迷信じゃないの?」
「実際あるみたいだぜ」
「…」
「で?ホントに大嫌いなの?別れる?」
「嫌いじゃないです大好きです愛してます別れません絶対」
「よろしい」
「…あ、それも嘘だったり」
「嘘じゃねえよっっ!!!!!!!!」
今日も今日とて繰り広げる、恋人とのくだらない会話。
【エイプリルフール】