目は口ほどに物を言う。よく聞くことわざ。
だからという謎の理由で、目を見て相手の考えていることを当てる謎のゲームが勝手に開催された。
開始5分。睨むように見つめられる。自分はゲームをガン無視して読書しているから、気配だけだが。
10分。「肉食べたい」「違う」「じゃあ焼きそばパン食いたい」「じゃあってなんだよ、それはお前だろ後で自分で買え」「ちぇ」
完全に当てずっぽうな回答をバサバサあしらっていく。本の内容が頭に入ってこなくなってきた。
15分。読書は諦めた。顔を上げる。もうとっくに顔のゲシュタルト崩壊は最高潮だと思うが、なおも見つめ続けられる。新たな回答は出てこない。
30分。もはやただ見つめられているだけだった。こっちも見つめ続けるのに飽きてきた。そろそろ諦めてほしいと思っていた矢先、「キレーだな、お前の目」とぽつりと呟かれた。そらしかけていた自分の目を、また目の前の双眸に向ける。
それは、こちらの目の表面から奥まで探るように、時々ふるふると震えながらこちらを見つめていた。一瞬のまばたきには、あどけなささえ感じる。
そんな無邪気さを秘めたお前の瞳のほうが、よっぽど綺麗だというのに。
(そんな風に、見つめられると)
からかいたくなるだろ。
「…ゲームはどうしたんだよ」
「あ」
「忘れてたな、言い出しっぺのくせに」
「思い出したからいーんだよ!で、答えは?」
「…」
逡巡。
これだけ時間が空いたんだから、当然考えていることも変わっている。その中で、何を答えようか考えた。
…これにしよう。
「…かわいいなって、思ってた」
あながち間違いではない。頭の片隅くらいには、ずっとあった。最初こそ呆れがほとんどだったが。
案の定、目の前の男はみるみるうちに顔を赤くする。ほら、かわいい。
「…っそれ、今考えただろ……」
「正解だけど不正解」
「どっちだよっ」
あまりにかわいくて少々調子に乗っていたら、頭をはたかれた。
【見つめられると】
幼い頃、大人にたくさん褒められて、ちやほやされて、自分は世界で一番特別な存在なのだと思っていた時もあった。
けど、その大人たちより少し低いくらいの目線まで成長したとき、自分が特別な存在だなんてこと、よほど小さなコミュニティ内でもない限り、絶対にあり得ないことだと知った。
そして、世の中の大人たちと同じ目線まで成長した今、また自分は特別な存在になろうと必死になっていた。
今度は世界ではなく、たった一人の、誰よりも大切な人の特別に。
【特別な存在】
二人のぼっち。
出会って
惹かれて
くっついて
今ではもう二人ぼっち。
【二人ぼっち】
自分は、泣かない人間だと思っていた。泣かない人間に、させられていた。
オレが泣くと、うるさいから。だから、泣くなって言われて育った。
どんなに痛くても怖くても、ひどいことをされても、オレは泣かなかった。
心配して「泣いていいんだよ」と言ってくれる親切な人もいたが、「泣かないよ」と笑顔を張り付けて、必死に平気なふりをしていた。
そんな幼少期を過ごして一人立ちしたオレは今、ただ一人の大切な人に抱き締められながら、その優しさに、愛しさに、ぼろぼろと泣いている。
【泣かないよ】
怖がりな君へ。怖がりな僕をプレゼントしましょう。
二人でいればあんまり怖くない、…でしょ?
【怖がり】