勿忘草
あとで書く
こんな夢を見た。俺様がとある帝国の王になる夢を。
こんな夢を見た。俺がある男の相棒にならずそのまま殺し屋を続けている夢を。
こんな夢を見た。拙者が泥棒としてでは無く暗殺者として百地三太夫に使われる夢を。
それはそれは、とても酷い悪夢だった。
夢はなく、全てが己の思うままの人生。信じられる人間が1人もいない色褪せた人生。13代目の名が泣く目指したものとは違う人生。
三者三様、見た夢は違えどそれは確かに存在していた未来であり、そして違えた未来である。
明朝。目が覚めた3人は示し合わすことなく顔を合わせるとホッと肩の力を抜く。夢と言いきるには生々しく、目覚めた部屋で仲間がいないかもしれないという恐怖を抱いたのも顔を合わせた3人がそうだろう。
「聞いてくれヨ、悪い夢を見ちまってよ」
「ほー、そりゃ俺も見たぜ。最悪な夢だ」
「ふむ、このような偶然もあるものだな。恥ずかしながら、拙者も夢見が悪かったでござる」
互いに顔を見合わせ、何処か怯えるように声を潜めて話す面々。
あれは悪い夢だ。あんなの現実な訳がない。そう不安を紛らわせるように口々に話す2人を見てルパンはそこのソファに座れと指示してキッチンへ消える。
大人しく座っている2人の間に甘いミルクの匂いが漂うと、2人してソファからキッチンに消えたルパンの背を探す。
「ほらよ。お待ちどうさん、俺様特製ホットミルクだ」
お盆に湯気の立つカップを3つ乗せ、2人の待つソファに戻れば順番に手渡していく。
「おいルパン、俺たちはミルクで喜ぶようなガキじゃないんだぜ」
「まーまー、文句は飲んでから言ってみろって」
「……、…これは、酒か?」
唇を尖らせ文句をつける次元と宥めようとしているルパンの耳にぽつりと五ェ門の声が聞こえる。
「俺様特製って言ったろ?2人ともまずは飲んでみろって、な?」
スンスンと猫の様に匂いを嗅いで恐る恐る口にする五ェ門と酒と聞いて飲む気になるも、熱くて中々飲めず息を吹きかけて冷まして飲む次元。
口をつけてから2人の顔がぱあっと明るくなるのは早かった。
次元のミルクにはウイスキーを。五ェ門のミルクには日本酒を入れて大人の味付けにしてある。
味が気に入ったのか、先程の躊躇は何だったのかと思う程美味しそうに飲む2人を見て、ルパンもカップに口をつける。
「あー……身体が暖まるな…」
「うむ…、誠美味である…」
飲んでいるうちに2人の頬には熱が宿り、顔を合わせた時の青白い顔では無くなったことを横目で確認して内心安心するルパン。
1人余裕そうに振舞っているが、恐らく誰よりも2人の居ない人生に怯えていたのはルパンである。
ルパン三世という人間にとって、次元大介と石川五ェ門は切っても切り離せない必要な仲間だからだ。
「拙者はこのまま起きているがお主らはどうする」
「あー、あれだけ夢見が悪けりゃ二度寝って気分にゃなれねーな…」
そんなことを大人用のホットミルクを片手に話している2人を見てルパンが声をかける。
「そんじゃあちくっと時間的には早いんだが、計画でも詰めていくか?」
起きたら見せようと思っていた計画書を、ルパンは見やすいように向きを変えて地図と共にテーブルに広げる。
「そりゃいい。気を紛らわすには最適だな」
「ああ、拙者にも異論はない」
計画書を覗き込み各々が役割を確認している姿を見て改めて計画を伝えるルパン。
微かな不安さえも潰すように目を合わせ話すルパンの姿に、僅かに残っていた無意識の懐疑心も解れて消えるだろう。
3人の会談は日が昇り、小鳥が鳴き出すまで続くのであった。
お題 こんな夢をみた/二次創作
日も沈む時間。俺は以前似合うと言ってくれて、買ったままタンスにしまい込まれていた服に袖を通す。
お気に入りの香水にお気に入りのピアス。どれもこれもあの人が似合う、素敵だと言ってくれたもの。
鏡を見ると、いつもと違う自分がそこに居て少しだけ胸を張れるような気がする。
図書館で図鑑を抱えて、花言葉も調べてあの人に似合うと思った花を包んでもらい道中で受け取って会いに行く。
今日は朝起きてからずっと頭の中はあの人でいっぱいだった。綺麗な指、遠くてもよく通る声。あの人に出会った日から惚れた日を何度も思い出しては胸が暖かくなる。
待ち合わせの時間より数分前に会場に選ばれた店にたどり着けば、入る前に窓の反射で身嗜みを確認する。大丈夫、今日の俺はいつもよりずっとかっこいい。
今日俺は、大好きなあの人にフラれに来た。
告白は出来なかった。ただ同じ教室で話すだけで、後はその背中を見つめているだけだった。
もっと話したかったけど、あの人の目はずっと誰かを見つめていたから。
あの人に恋をしていた俺は恋をしていることに気付いたのに離れる事なんて出来ず、あの人に会う度失恋していた。
何度か深呼吸をして店に入ると同じ学科の面々が迎え入れてくれる。
その中でも真っ先に目がいくのは勿論あの人だ。
「結婚、おめでとうございます」
白花胡蝶蘭の花束を差し出しながら笑う。……俺は上手に笑えているだろうか。
そんな不安も目の前にいる2人は知らずに受け取って笑顔を見せてくれる。
そんな姿に、ぽつりと言葉が漏れてしまう。
「…今、幸せですか?」
その答えはあの人の目と、学校では見られなかった輝くようなその笑みがよく語ってくれた。
そんな姿を見て、俺は悲しかったけど嬉しく思えた事が嬉しかった。
お題 特別な夜
じわり、と汗が頬を伝う感覚はあれどこの身は指一本たりとも動かず、芯から冷えていく心地を味わわされる。
海の底にいるような、冷たく暗いこの部屋には暖かくなるものが確かにあるのに、手を伸ばすことも出来ずただひたすらこの目は闇を見つめる。
「 」
微かに唇は動いたのだろうか、それすら今の自分にはわからず、ただ空気を吐き出す息だけが部屋の中に響く。
寒い、冷たい、お腹がすいた、……寂しい。
物語のように都合良く扉を開く存在がいるわけでもなく、ただ今日も息をする肉の塊に成り下がるのであった。
お題 海の底