「さむっ!」
何人かでイルミネーションを見に来た。尋常じゃない寒さと人混みに疲れ、ベンチで休憩中。
それぞれ食べ物など買いに行き、残っているのは私ともう一人。
「ねぇねぇ、それ暖かそうじゃん」
手ぶくろを見て言う。
「何?持ってこなかったの?」
「うん、だってこんなに寒いと思わなかったんだもん。うー、死ぬー」
ポケットに手を突っ込み縮こまる。
「はい」
そう言って着けていた手ぶくろを外し渡してきた。
「やったー!あったけぇ」
借りた手袋はサイズがピッタリだった。
「小さくね?」
ニヤニヤしながら顔を覗き込む。
『手ぶくろ』
開発のため切り崩された山。緑はだんだん減っていく。
LEDに付け替えられた街灯。輝いていた星が姿を消していく。
賑わっていた商店街。シャッターばかりが並んでいる。
ボール遊びが禁止された公園。子どもの影は見当たらない。
よく話していたご近所さん。最近見かけなくなった。
鏡に映った私。あの頃の面影はない。
『変わらないものはない』
―嘘だ!何てことだ!
もう残された時間はわずかであった。
いったいどれ程のものを切り捨てただろう。
―年頃の娘である私が何故こんな目に合わなくてはいけないのだろうか。
そう思うと同時に、母の最後の言葉が蘇る。
「…っ!」
残された自分の足を信じるしかない。
この道を走り続けなくては。
ようやくたどり着いたこの建物。
あとは階段を登り、扉を開くだけ。
ガラガラガラッ!
キーンコーンカーンコーン
間に合った。
―1時間前―
「お母さん!何で起こしてくれないの!」
リビングの扉を開けるが誰もいなかった。
テーブルの上には包まれたお弁当と朝食が用意されていた。
一緒に置かれたメモには、
『今日は早番だったから起こせなくてごめんね~。ご飯とお弁当はちゃんと用意したから許してね!』
「うぅ〜、時間がない!ご飯はしょうがないな」
メモを置き、急いで支度を始める。
「やばい!テストなのに〜」
「う〜ん、眉毛だけは最低でも」
「髪は……、時間が…」
いつものメイクやヘアセットは諦め家を飛び出す。
自転車に乗り爆走する。
「あっ!」
お弁当を忘れたことを思い出す。
しかし、取りに戻る時間はない。
どれ程のものを切り捨てただろう。
―なんでこんな目に合わないといけないの。
苛立ちとともに母の昨晩の言葉を思い出す。
『もう!あんたいい歳なんだから余裕を持って行動しなさい!』
「…っ!」
自業自得であった。
向かい風でボサボサになった髪で教室にたどり着く。
ガラガラガラッ!
キーンコーンカーンコーン
『ベルの音』
見渡す限り人、人、人。
声を上げるが誰も振り返らない。
厄介な人だと思うのだろう。我関せず。
目が合えば何されるか分からないと。
「きゃーーー」
悲鳴と共に輪が広がる。
輪の中心には血溜まりと人。
向けられる無数の眼とレンズ。
それでも僕は見えない人。
『寂しさ』
眠い。
ここにいれば寒さはあまり感じない。
ああ、眠い。
もう準備は整っているから。
あとはもう眠るだけ。
また目が覚めたら君はそばにいてくれるだろうか。
それだけが心配…。
…この眠気には逆らえない…。
まだ…君を感じて…いたい…の…に…。
……春に…会おう……やく…そ…く……。
『冬は一緒に』