―嘘だ!何てことだ!
もう残された時間はわずかであった。
いったいどれ程のものを切り捨てただろう。
―年頃の娘である私が何故こんな目に合わなくてはいけないのだろうか。
そう思うと同時に、母の最後の言葉が蘇る。
「…っ!」
残された自分の足を信じるしかない。
この道を走り続けなくては。
ようやくたどり着いたこの建物。
あとは階段を登り、扉を開くだけ。
ガラガラガラッ!
キーンコーンカーンコーン
間に合った。
―1時間前―
「お母さん!何で起こしてくれないの!」
リビングの扉を開けるが誰もいなかった。
テーブルの上には包まれたお弁当と朝食が用意されていた。
一緒に置かれたメモには、
『今日は早番だったから起こせなくてごめんね~。ご飯とお弁当はちゃんと用意したから許してね!』
「うぅ〜、時間がない!ご飯はしょうがないな」
メモを置き、急いで支度を始める。
「やばい!テストなのに〜」
「う〜ん、眉毛だけは最低でも」
「髪は……、時間が…」
いつものメイクやヘアセットは諦め家を飛び出す。
自転車に乗り爆走する。
「あっ!」
お弁当を忘れたことを思い出す。
しかし、取りに戻る時間はない。
どれ程のものを切り捨てただろう。
―なんでこんな目に合わないといけないの。
苛立ちとともに母の昨晩の言葉を思い出す。
『もう!あんたいい歳なんだから余裕を持って行動しなさい!』
「…っ!」
自業自得であった。
向かい風でボサボサになった髪で教室にたどり着く。
ガラガラガラッ!
キーンコーンカーンコーン
『ベルの音』
12/20/2022, 3:20:43 PM