秋風に揺らされたススキが頬を撫でていく。
友だちと別れた帰り道。夕陽に照らされたススキが金色の海のようで、つい足を踏み入れてしまった。
冷たくなった風とともに、日に温められたススキが柔らかく頬を撫でてくるのに、クスクスと笑い声がこぼれる。
夕暮れの空が夜に変わるわずかな間、一番星が輝きはじめるのを見て、家路につこうと歩きはじめる。
クンっと手を引かれた気がして後ろを振り返る。いや、振り返ろうとしてバランスを崩してしまう。
咄嗟に手を地面につこうとするが、手の先に想像していた土の感触はなく、ふわりとした何かに沈み込む。
ゾワリと手の先から鳥肌がたつ。
倒れ込んでしまった柔らかいナニかから体を起こそうと手足を動かすが、手の先にも足の先にも地面の固さはなく、立ち上がれない。
いつの間にか周囲は暗闇に覆われていた。風は強くなりザワザワとススキを揺らす。
震える口で紡いだ音は、ススキの波音に消えていく。
頬撫で
初めて手にした呪いの残滓は、小さな黒水晶のようだった。
鋭く、冷たく、触れるだけで身を凍らすような、正体不明の恐怖が襲いかかる。
すぐにでも手放したい衝動を抑えて、水晶を握りしめる。
目を瞑り、大切なものを思い浮かべる。
家族、友人、領民、精霊、お母様…
冷えた身体に温もりが戻ってくる。
手の内の水晶にも徐々に体温が移っていく。
冷たさを感じなくなり、ゆっくりと目を開ける。
手のひらを開き、水晶を確認する。
太陽を反射し、虹色に光る透明な水晶を見て、大きく息を吐く。
どうやら呪いは浄化されたようだ。
周りで精霊たちが喜んでいるが、ぼんやりと聞き流してしまう。
これは始まりでしかない。
黒水晶を手にした時の恐怖を思い出し、小さく震える。
この先、何度となく繰り返すことになる恐怖。
肉体的苦痛はなくとも、あの恐怖に心は耐えられるだろうか。
もう一度、目を閉じる。
家族、友人、領民、精霊、お母様…
亡き母の悲しそうな笑顔を思い出す。
大切なものを守るために、目を強く瞑り、溢れそうになる涙を抑え込む。
これが私の運命だ。