優越感、劣等感…
今の職場に就いて一週間、強烈な上司の下に居た。
美しく強気なナイスミドルの彼女は
事あるごとにMさん(30年ベテラン)と私を比べた。
私はどんどん疲弊していった。
一週間がたち、上司は私に言った。
「使えない。上履きとタイムカード持って帰りな」
私は何も考えられず、上履きとタイムカードを持って事務所に行った。
知らないうちに泣いていた。
劣等感というより、敗北感だった。
事あるごとに比べられたMさんは、
のらりくらりとほとんど仕事をしない人だった。
私は自分なりに一生懸命尽くした。
けれど及ばなかったのだ。
事務所で泣く私に、部長が違う部署を用意すると言ってくれた。
泣きながら私は、自分に足りないものを考えていた。
それから半年、資格をとるために
働きながらスクールに通った。
あれから六年。
今も同じ職場に居る。
ただ、あの女上司とは、一度も顔を合わせていない。
これまでずっと…
刑事もののドラマが好きでよく観る。
日常に起こらない謎解きをする。
犯人の心理など読み解くのが好きだ。
しかし、日常生活で防犯カメラの位置を
つい確認する自分に気づく。
ドラマの中の犯罪者に寄り添いすぎて
疑似犯罪者になっている。
で、またまた気づく。
白バイや警察官を異常に気にする自分…
日常の積み重ねってコワい。
街の明かり…
高校を卒業して就職した年に
先輩の車に乗せてもらったことがある。
夜の街は暗かった。
「目を開けるなよ」と言われ
車がどこかに停まるまで
私は目を閉じていた。
「いいよ」の合図で目を開けると
そこは山の上
眼下には無数の光の粒。
とてもとても綺麗だった。
何万ドルの夜景か
それよりも私を喜ばせようとした先輩の気持ちが嬉しかった。
その日から七年が過ぎて私は結婚した。
あの日に先輩が見せてくれた光の粒のひとつに
私は今住んでいる。
私の明かりは、誰かの心を震わせることがあるだろうか。
友だちの思い出…
思い出というか、現在進行形の話だ。
スマホでマンガを読んでいる。
その続きが気になったが課金マークが…。
そこで、ポイ活をすることにした。
アリを育てるゲームに決めた。簡単そうに思えたからだ。
初めのうちは順調に進んだが
数日でボコボコに攻撃された。そういうゲームだから。
そうこうしていたとき、コロニー(チーム)に誘われた。
見知らぬ韓国語の人だった。
断る理由がなく入れてもらった。
コロニーにも少し慣れ、戦いに参加したりした。
しかし、なにしろ不慣れな上に老眼で小さい字が読めない。
細かい注意書きも読まず、コロニーのルールを破ってしまった。
すると、カンボジア語の人からメールが来た。
率直にダメなところを注意してくれていた。
どう返事をしたらいいか、謝るのか、それも変か。
「了解しました。ありがとう。」
考え考え、返事を書いた。
にっこりマークの絵文字で返信が来た。
こんな感じに四苦八苦しながら楽しんでいる。
友だちとは言えないかもしれないが、
親切にしてくれてありがとう。
この道の先に…
子供には通学路というのがある。
そういうのをほぼ守らない子供だった。
ある日の帰り道
随分遠回りして、初めて通る道だった。
ボールのぶつかる音がして、そちらを見ると
同級生のT君が、テニスの壁打ちをしていた。
彼とは一度も話したことがなかった。
声をかけるでもなく遠くに見ながら通り過ぎた。
少ししてT君は転校した。
その後、テニスの大会に出て、準優勝したと
クラスメイトが騒いでいた。
人知れず練習していたT君の姿は、とても良いと思った。
しかし、私はそれを誰にも言わなかった。
人知れずする努力は、誰にも知られてはいけないのだ。
結局、T君とは一度も会話しなかった。
今、どこかで偶然会ったとしても、きっとわからない。
けれど、あの日に偶然見た努力は、一生忘れないだろう。