「好き、嫌い」
好き、嫌い。
貴方に対する私の気持ちは、いつもその二つの間で揺れ動いている。
女にも金にもだらしない所。嫌い。
嘘をつく所。嫌い。
私の気持ちを考えてくれない所。嫌い。
多分、私が貴方を嫌いだと思うポイントって、普通なら一発アウトな案件だと思う。
でも。
子供と動物に優しい所。好き。
困っている人を放っておけない所。好き。
嘘をついても、私を泣かせても、それでも最終的には私の所へ戻って来てくれる所。好き。
それで、結局好きが勝って、いつも許してきた。
でも、気づいた。
貴方の一番嫌いな所。
何をしても私が最終的には許すと思っている事。
そして、それに気づいてしまったら、流石にもうムリ。
もう、許せないし、戻れない。
気持ちは「嫌い」に振れたまま、そこから動かなくなった。
だから、サヨナラ。
もう、要らない。
「雨の香り、涙の跡」
外は雨。ジメジメ、シトシト。
洗濯物は乾かないし、髪型はキマらないし、お洒落しても服も鞄も濡れちゃう。
そして、それを理由に家に籠もる。
昨日までは一緒に居た貴方も居ないし。
もう、何処をどう見ても出かける理由が見当たらない。
強いて言うなら、涙の跡は傘で隠れる位かな。
でも、そんな気分にもならないし。
だから。
涙の跡がなくなるまでは。
気持ち良く、スッキリと出かける気分になるまでは。
この雨音に包まれて、一人の時間を大切に過ごしたい。
傷つく事も、その傷を癒す事も。
全て自己完結してから、外に出よう。
「糸」
糸。
細いけど、必ず何かを、誰かを、繋いでくれる。
服、靴、鞄。
蜘蛛の巣。
そして、人。
運命の赤い糸って本当なんだろうか?
それは解らないけど、でも。
確かに人との絆を感じる時がある。
それは、赤い糸ではなくても、確かに人と人を繋ぐ糸で、縁だと思う。
だったら、何故糸じゃなくてもっと丈夫なロープとかにしなかったの?って思うけど、あれは糸だから意味があると思う。
少しの力で簡単に切れてしまう糸。
だからこそ、切らない様に。
絡まらない様に。
長く紡げる様に。
努力が必要という事を示唆してるんだと思う。
運命とか、環境とか、運とか。
そんなモノだけに頼らず、自分も努力を続けろ、と言う戒めだと思う。
「届かないのに」
side.A
もう誰にも私の声は届かないのに。
声も涙も枯れ果てて、どれだけ叫んでも、誰にも届かないのに。
それでも私は叫び続ける。
「誰か、気づいて。私はここにいるの!!」
「誰か。お願い!!ここから出して!!」
「お願いだから、誰か!!」
私がここに閉じ込められて、一体何日経ったのだろう?
気がついたら、ここに閉じ込められていた。
一体私が何をした?
いつも、人の事を考えて生きてきた。
困ってる人は助けてきたし、恵まれない人にも施してきた。
そりゃあ、どれだか気をつけても生きてく上で誰にも迷惑をかけないなんて出来ないから、多かれ少なかれ誰かに恨みを買ったかもしれない。
でも、ここまでされる程の事を誰かにした覚えはない。
私が、一体、誰に何をした?
最初の頃はそう自問自答しながら、考えてた。
でも、どれだけ考えても解らない。
私のせいじゃないの?
誰でも良かったんじゃないの?
そう思ったりもして、考えは行きつ戻りつ。
そして、ただ時間だけが過ぎて行き。
もう、今の私は何も考えられなくなった。
ただここから出たい。それだけで。
そして、誰かが、気づいてくれるかもしれない、一縷の望みにかけて、誰にも届かないかもしれない声を上げ続ける。
side.B
苦しめばいい。悩めばいい。
貴方が私にした事を考えると、これでもまだまだ足りない。
貴方はいつも日向を歩いていた。
その影に、私を踏み台にして。
いつも、悪気なんかない。
むしろ、常に人を思い遣っている態度を崩さず、正義感に溢れた顔をして。
でも、貴方の善意はいつも優越感と、偽善と、憐憫に溢れいた。
決して、本当に人の事を考えていなかった。
むしろ、下げずんでいた。
「私じゃなくて良かった」
「この子と比べると、私って随分恵まれてるよね?」
「こんな子にも優しく出来る私って、凄くない?人間出来てるよね?」
言葉にはしないけど、表情が、態度が、物語っていた。
どれだけそれが人を傷つけるか。
どれだけ人を惨めにさせて、生きる気力を奪うか。
悩めばいい。
苦しめばいい。
そして、「私は、正しい」そう思ったまま、朽ちて行けばいい。
side.C
人ってホントに愚かで、憐れ。
あの子も別に悪意はなかった。
ただちょっと優越感を持ちたかっただけ。
自分に酔いたかっただけ。
そして、あの子も。
不幸が重ならなければ、あの子にされた事も、されたとは思わず、してもらったと思えただろう。
少しの引っかかりを感じたとしても、それを悪意とまでは思わないだろうし、恨む事も無かっただろう。
ちょっと見方を、考え方を変えるだけで。
黒が白になり、悪意は善意になり。
誰にも害がないなら、良い風に受け止めれば皆が幸せを感じられるのに。
でも何故か?
自分のした事の悪意には目を瞑り、人の善意にも目を瞑り。
人を恨み、羨み、自分を正当化し。
ホントに人は愚か。
だからこそボク達悪魔の仕事が捗るんだけどね。
「記憶の地図」
もし記憶に地図があるなら、思い出したくない記憶は僻地に追いやって、覚えていたい事だけを真ん中に置いた地図に出来ればいいのに。
そしたら、悲しい事は目に入れず、楽しい事だけを見て、思い出して生きて行けるのに。
例えそれが成長を遠ざけるとしても、今の私にはそんね余裕もなく。
だから、ただ、忘れたい。
貴方の事も、貴方との想い出も。
記憶の地図の彼方に、追いやりたい。