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「届かないのに」


side.A
もう誰にも私の声は届かないのに。
声も涙も枯れ果てて、どれだけ叫んでも、誰にも届かないのに。

それでも私は叫び続ける。
「誰か、気づいて。私はここにいるの!!」
「誰か。お願い!!ここから出して!!」
「お願いだから、誰か!!」

私がここに閉じ込められて、一体何日経ったのだろう?
気がついたら、ここに閉じ込められていた。

一体私が何をした?
いつも、人の事を考えて生きてきた。
困ってる人は助けてきたし、恵まれない人にも施してきた。
そりゃあ、どれだか気をつけても生きてく上で誰にも迷惑をかけないなんて出来ないから、多かれ少なかれ誰かに恨みを買ったかもしれない。
でも、ここまでされる程の事を誰かにした覚えはない。
私が、一体、誰に何をした?

最初の頃はそう自問自答しながら、考えてた。
でも、どれだけ考えても解らない。
私のせいじゃないの?
誰でも良かったんじゃないの?
そう思ったりもして、考えは行きつ戻りつ。

そして、ただ時間だけが過ぎて行き。
もう、今の私は何も考えられなくなった。
ただここから出たい。それだけで。

そして、誰かが、気づいてくれるかもしれない、一縷の望みにかけて、誰にも届かないかもしれない声を上げ続ける。


side.B
苦しめばいい。悩めばいい。
貴方が私にした事を考えると、これでもまだまだ足りない。
貴方はいつも日向を歩いていた。
その影に、私を踏み台にして。

いつも、悪気なんかない。
むしろ、常に人を思い遣っている態度を崩さず、正義感に溢れた顔をして。

でも、貴方の善意はいつも優越感と、偽善と、憐憫に溢れいた。
決して、本当に人の事を考えていなかった。
むしろ、下げずんでいた。

「私じゃなくて良かった」
「この子と比べると、私って随分恵まれてるよね?」
「こんな子にも優しく出来る私って、凄くない?人間出来てるよね?」

言葉にはしないけど、表情が、態度が、物語っていた。

どれだけそれが人を傷つけるか。
どれだけ人を惨めにさせて、生きる気力を奪うか。

悩めばいい。
苦しめばいい。
そして、「私は、正しい」そう思ったまま、朽ちて行けばいい。


side.C


人ってホントに愚かで、憐れ。

あの子も別に悪意はなかった。
ただちょっと優越感を持ちたかっただけ。
自分に酔いたかっただけ。

そして、あの子も。
不幸が重ならなければ、あの子にされた事も、されたとは思わず、してもらったと思えただろう。
少しの引っかかりを感じたとしても、それを悪意とまでは思わないだろうし、恨む事も無かっただろう。

ちょっと見方を、考え方を変えるだけで。
黒が白になり、悪意は善意になり。
誰にも害がないなら、良い風に受け止めれば皆が幸せを感じられるのに。

でも何故か?
自分のした事の悪意には目を瞑り、人の善意にも目を瞑り。
人を恨み、羨み、自分を正当化し。

ホントに人は愚か。
だからこそボク達悪魔の仕事が捗るんだけどね。

6/17/2025, 11:05:15 AM