「はなればなれ」
貴方と離れて、どれだけの時間が経ったのだろうか。
つい昨日の事の様にも思うし、随分昔の事の様にも思う。
貴方の笑顔、囁き声、たまに見せる真面目な表情。
全てがハッキリと思い出せるのに。
その反面、凄く時間が経ってしまって、凄く遠まで来てしまって、とても離れてしまった気がする。
当たり前に側に居たのに。
当たり前に笑いあっていたのに。
当たり前に抱き合っていたのに。
当たり前の今日は、当たり前の明日に繋がらない。
昨日の幸せは、明日の幸せに繋がるとは限らない。
一年後は、一月後は、明日は、一分先は。
何が起きるかわからない。
幸せが、不幸になるのかも。
今の辛さが、幸せに繋がるのかも。
だから、今は辛くても。
一つ一つの、全ての時間を大切にしていく。
辛くても、前を向いて歩いて行く。
貴方と離れた、この辛さを無駄にしない為にも、私は立ち止まらずに、進んで行く。
明日の、為に。
「子猫」
梅雨時の大雨の日。
母が慌てて私の職場のお店に来た。
「どうしよう??この子拾ってしまった」
母の手には、まだ目も開いてない、掌に収まるサイズの子猫。
数日前から、裏の空き地で白猫を見かけてた。
お母さん猫と子猫2匹。
凄く警戒心が強くて、近寄らせてもくれず、ご飯もあげれない子だった。
そして、お腹が大きいな、とは思ってた。
そして、一昨日から白猫のお腹はペタンコになって、でも子猫が何処にいるのか分からなくて。
お母さん白猫もご飯食べてなくてガリガリなのに、無事に育てられるんだろうか、最初からいた子猫達は?
もう、心配しかなかった、そんな矢先に。
母曰く、「大雨なのにミャーミャー何だかずっと鳴いてるし、お母さん猫の姿も見えないし、気になって探しに行ったら隣の家の車庫の中に落ちてたから、思わず拾ってしまった。どうしよう?」
って、どうしようもこうしようも、拾ったからには責任を持って育てないと。
それからが大変だった。
まず健康診断。栄養状態が良くなくて、2時間おきのミルク。店長に頼んで、というか、許してくれないなら辞める、と半ば脅して、仕事中は店の休憩室に連れていき、2時間おきのミルク&排泄タイム。
他にも一緒に生まれた子もいるんだろうけど、一匹は隣の家の子が拾って、次の日に何処かに貰われていったらしい。他の子は探したけど見つけられなかった。
せめて、この子は何とか、って言う思いだけで、凄く寝不足になったけど、兎に角頑張った。
そして。こちらの頑張りに応えてくれるように、子猫も頑張ってくれて、何とか元気に育ってカリカリまで食べられる様になった。
そして、お母さん猫も又姿を見せるようになって、あれだけ警戒心が強かったのに、家で子猫にミルクをあげている姿を見てから、お母さん猫も2匹の子猫も、家には入らないけど、ご飯は食べてくれるようになった。
それからも色々あって、結局お母さん猫は何処かに行ってしまったけど、子猫2匹は何とか捕獲して、無事家の子になった。
あれから十年以上。色々あったけど、3匹で仲良く過ごして、虹の橋を渡るまで家に居てくれた。
後悔もいっぱいあるけど、もし、幸せで居てくれたなら、嬉しい。
今でも思い出すと泣けるけど、こんなに大切な存在に巡り会えた事、嬉しかった。
有難う。もし又生まれ変わったら、私が猫で君達が飼い主でもいいし、君達は又猫で又私が飼い主でももいいし、皆が猫でも人でもいい。
何でもいいから、又、巡り会いたい。
実話です。一番長生きしてくれた猫の名前は、ベタですが
シロでした。親バカだと思いますが、少し困り顔の超可愛い猫でした。
「秋風」
秋風は、何だか寂しい。
少し冷たくて、一人でいる事を感じてしまう。
自分で選んだ孤独だから、後悔もしてないし、鬱陶しい人といるよりは一人で居る方が、よっぽどいい。
でも、寒い季節になると、温め合う存在が欲しくなる。
多分、単なる寒さからの錯覚だとは思うけど。
で、猫を飼った。
そして、ハマった。
何この可愛い生き物は?
このツンデレがまた堪らない。
女王様っぷりも、人にされたら即縁切りだけど、お猫様は許せる。というか、むしろ大歓迎。
何をされても、困る事はあるけど、腹は立たない。
で、犬も飼った。
そして又もやハマった。
何この可愛い生き物は?
このつぶらな、真っ直ぐに見つめてくる瞳が堪らない。
ちょっと鈍臭くて、溝にハマったり壁にぶつかったりも、もう全てが愛らしい。
もふもふはなんて尊いの?可愛いの?愛しいよ。
……って、こうやってみんな犬猫の下僕になっていくのね。
ウンウン、わかるよ、その気持ち。
だって、もふもふは正義だから。
「また会いましょう」
そう言って別れられれば、どれだけ良かったでしょうか。
最初はあんなにお互いが好きで、大切で。
毎日が輝いていて、逢えない時間が淋しくて。
それがいつの間にか。
同じ空間にいても言葉を交わす事もなく。
たまに会話があっても事務連絡だけで、しかもそれだけの会話でもお互いに刺々しくて。
明確にいつからなのかはわからないけど、気が付いたらもう修復できない所まで来ていた。
顔も見たくない、同じ空気を吸うのも嫌。
もう、あの頃には絶対に戻れない。
何処かで元通りになれるタイミングがあったのかもしれない。
せめて、憎み合う事だけは避けられたのかもしれない。
でも、努力はしたけど、どうにもならなかった。
そもそも、あれだけ頑張っても駄目なら、もうどうにも出来ないと思う。
そして、お互いに我慢を重ねて、ここまで来てしまった。
私達に、「また」はない。
きっと、何処かで会ってもお互いに声もかけないだろう。
一度は愛した人だから、嫌いになりたくなかった。
憎みたくなかった。
好きになった自分を、貴方を、否定したくなかった。
せめて、いい思い出にしたかった。
だけど……もう、ここまで来てしまったら。
もう二度と会わない。顔も見せないで。
二度と私の人生に、関わらないで。
サヨナラ。
「スリル」
どんな時にスリルを感じる?
お化け屋敷?絶叫マシン?スピード?
私は何故か余りスリルを感じる事がなかった。
怖いって感情がそもそも麻痺してたのかもしれない。
だから、若い頃はスリルを味わいたくて、色んな事をしてみた。
でも、何をしても何だか物足りなくて。
その内に歳を重ねて、結婚して、子供が出来たら。
まぁ、子育ては毎日スリルだらけ。
子供なんて、目を離すと何をしでかすか分からない。
斜め上の行動をするし、危険を知らないから、ホントに予測もつかない。
外で気が抜けないのは勿論の事、家の中でも気が抜けないし、静かにしてるとそれはそれで絶対に何かしでかしてるから、マズい前兆だし。
毎日が大変で。兎に角無事に育てる、ただそれだけの事がこんなに大変だって思わなかった。
でも、楽しいし、充実してる。
若い頃に求めてたスリルとは違うけど、でも。
こんなスリルの方がいい。
幸せと、背中合わせのスリルが、いい。