言い出せなかった「」
言い出せなかったことはたくさんある。
自分がこどものころは
「お母さん、私髪の毛のばしていい?」
「お父さん、たまには一緒に夕飯食べたいな」
「私、部活辞めたいんだよね」
自分が若いころは
「もっと連絡してよ」
「なんで友達とばっかりでかけるの?」
「何のために私と付き合ってるの?」
今は
「たまには手伝ってほしいなぁ」
「そこに靴下ぬがないでー」
「洗濯物くらい入れておいてくれたらいいのに」
子供の時は、言い出せなかったことが多かった。
今は、あえて言わないようにしてる事が多いのかもしれない。
ページをめくる
私の指は太い。そして先っぽはヘラ型。爪は小さい。
母の指は白くて、細くて、綺麗だった。
子供の頃、隣に座ってよく一緒に読書をした。
母がその指でページをめくるのを見ると、羨ましくて仕方なかった。
何で私の指はこんなに太いんだろう。
雑誌に載っていた指の体操をしても、マッサージをしてもちっとも細くならない。
こんな手じゃ絵にならない。
そのコンプレックスはいつもあって、綺麗な指の友達を見ると惨めな気分になった。
人に物を渡したりするのも、授業で立って教科書を読むのも、体育のフォークダンスで人と手を繋ぐのも苦手だった。
大学に入って彼氏ができた。
男だけど、細くて白くて長い指。
やっぱり私は自分の手を堂々と出すことはできなかった。
ある日2人で指輪を買いに行ったら、何と私の方がサイズが大きかった。
彼は気にしてなかったけど、私は恥ずかしくて惨めで自分の手を呪った。
店員さんにも笑われている気がした。
あれから何年も経ち必死で子育てをしていたので、そんな感覚忘れていた。
いや、仕事でパソコンを使う時に誰かが近くにいたり、横の人の手が綺麗だったりすると多少は思い出してはいる。
でも、以前ほどは気にならなくなったということだ。
この手はもう。最後のときまで私と一緒だ。
急に細く白くなることはありえない。
それでも私は、大好きな本のページをめくる事ができる。それで十分幸せじゃないか。
今まで嫌ってばかりいてごめんよ。
これからも一緒にたくさんのページをめくっていこう。最後まで、どうぞよろしくね!
お題を見て、そんなことを思った日。
夏の忘れ物を探しに
つくつくぼうしとヒグラシが鳴くと、少し秋を感じだす。
スーパーには梨が並びだしたのに、外は真夏より暑い。
でも、夏ほどスカッともせず秋というには程遠い。
残暑?というには暑すぎてこの季節が何なのかよく分からなくなってくる。
確かに秋は混ざっているのだ。
日が暮れるのが早くなり、夜は少し涼しくなった。
この暑さが夏の忘れ物だというなら、えらく大きい忘れ物だ。
海にはそろそろクラゲが出るだろう。
スイカ割りも花火も大概は終わってしまった。
残ったのは暑さだけ。
毎年、夏の忘れ物が大きくなってくる気がする。
探しに行く必要もないほど、でーんと置かれた荷物。
これ以上忘れ物が大きくなったら、秋がなくなってしまうんじゃないかと少し寂しくなった。
8月31日、午後5時
8月の終わり、午後5時。
まだまだ気温は高い。
けれど、風には明らかに秋の気配を感じる。
小6息子と夕飯の買い物にでかける。
「あ、お母さんさんまだ!」
立派なさんまが鮮魚コーナーに並んでいた。
ツヤツヤの肌。ピシッとした黒目。
悩んだけれど、今日はハンバーグの予定だったので次回のお楽しみにすることにした。
「次行くときは、さんま買おうね」
息子と約束を交わし、少し日が落ち出した道をゆっくり帰る。
6年生だけど、まだまだ幼い息子。
いつかは一緒に歩けなくなる道。
買い物にも、いつまでついてきてくれるのかな。
歌を歌いながら歩く彼の隣で、なんだかセンチメンタルな気持ちになりながら歩いた、8月31日の午後5時。
心の中の風景は
心の中の風景はいつも同じ場所。
視界の4分の3は青空で、地球は丸いとよくわかる。
どこまでも続く森は、私の目の端っこを突き抜けて、追いきれないとこまで続いていく。
夏になればサトウキビ。こっそり折ってかじっては吐き出し、甘い汁だけ吸われてる。
道には彼らの節々が、点々点々つらなっている。
食べきれないほどのサトウキビ畑。
こんなにも鮮明に思い出すのに、今はビル群のど真ん中。空は探すもんなのだと大人になって知ったこと。
ある日、電車からみた夕焼けがあまりに美しいので降りた瞬間猛ダッシュ。
ビルの隙間を写真撮影。
じわんじわんと心の温度がいい温度。
これがまた、心の中の風景になっていくのかもしれない。