今日の天気は、雨。頭が痛い。
ここぞとばかりに、おまえにもたれかかってみる。
おまえは何も言わずに、オレの頭を撫でた。
甘やかされてる。と思う。
オレは身を捩って、おまえに抱き付いた。ソファーが少し軋んだ。
おまえが読んでいた本を置くのを見て、目を閉じる。
雨音が大きく聴こえた。
鏡を覗くと、たまに“あの女”がいる。
オレの分身になりかけていた女。
なあ、オレが女だったら、よかったのか?
おまえは、「そんなことない」って言うんだろうな。
オレを一番認められなかったのは、オレだ。昔かけられた呪いのせい。異性愛以外は異常だって。
歪な心を持っていると思った。化物なんだと思った。
でも、違う。オレは、ただの、おまえのことが好きな人間だ。
捨てられずにいる、100円のライター。安っぽくて、その実安い。どこにでもありそうなもの。
おまえが、オレに初めてくれたもの。だから、特別で、大切なもの。
気持ち悪いほどの情念を抱えている。その癖、本心を誤魔化し続けているから、性質が悪い。
でも、この想いは、人ひとりを殺すのに充分な重さだから、煙に巻いている。
息子は、とっても良い子なんです。
小学校はあまり好きじゃないみたいだし、お友達作りも得意じゃありませんけれど。
よく、夫の本棚から、哲学書を借りて読んでいます。
たまに、私にだけ歌を披露してくれます。
お義母さんとお義父さんにも優しくて、可愛いんです。
私たち家族の宝なんですよ。
素直な良い子です。
夜の海は、静かで、入る前から深海にでもいるかのよう。
それでも、オレは海へ足を進めた。
海水が胸まできたところで、おまえのことを思い出してしまい、泣いた。小さなガキみたいに泣いた。誰も聴いてないから、泣ける。
ほんの少し海を増やしながら、オレは進む。
とぷんと、全身が水の中に入って。ふと、見上げた先には、月の光があった。
月のように優しいおまえを傷付けるのは、これが最初で最後だから。