スナエ

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8/14/2023, 10:07:40 AM

 どこへでも行ける気がしたんだけどな。
 自転車に乗れるようになった少年は、結局は遠くへは行けなかった。
 他人は怖い。信用出来ない。
 ただ、両親が付き添ってくれる時だけ、彼は自転車に乗って出かけた。
「いつか、あなたにも他人の音楽を聴きたくなる時が来るかもしれない」
「いつか、おまえにも哲学を話したくなる相手が出来るかもしれない」
 母と父は、穏やかに笑う。いつも、ふたりは優しくて、少年は、こんな日々がいつまでも続けばいいのにと思った。

8/13/2023, 10:08:52 AM

 俺がいらなくなったんだと思った。
 おまえは、俺との思い出を消して、健康になったから。
 ずっと、おまえの精神を蝕んでいたもの。行方不明になった両親のこと。戦争。兵士。そして、俺への恋心。
 なあ、俺のこと忘れていても、おまえのことが好きだって言ったら、どうする?
 紫煙を燻らせ、おまえの煙草の香りを思い出す。

8/12/2023, 10:11:28 AM

 ボイスレコーダーから流れる君の声が、あんまりに美しくて。オレは、驚いた。
 知らない会話。記憶にないやり取り。
 何故、オレと君が、こんな話をしているのか? さっぱり分からないけど、とても大切なことだったような気がして、立ち竦んだ。

8/11/2023, 10:05:00 AM

 夏の青空と、麦わら帽子に、白いワンピースの少女。よくある夏の風景。
 夏の陽炎。ただの幻想。
 あの女、結局は、オレと同じ存在。
 ただ、アイス片手に夏空の下を歩くオレたちが、一体どういう風に見えるのかなんて、くだらないことを考えている。
 あの女が、おまえの隣にいたら、恋人同士に見えてたのかな?

8/10/2023, 10:06:56 AM

 列車が終点に着いた。だから、おまえとはここでお別れ。
「さよなら」
「待てよ!」
「オレは、ここまでだから。でも、おまえは、必ず次の駅に行ける」
 降りようとするオレの服の袖を掴む指を、優しく取り払う。
「どうか、元気で」
「待ってくれ…………」
 そんな辛そうにするな。おまえは、オレがいなくても大丈夫なんだから。
「また会えるよ」
 オレは、初めておまえに嘘をついた。

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