おそらキレイ。でも、それはどうだってよくて。ぼくにとってだいじなのは、きみがだれなのかってこと。
「おまえの未来の恋人」だって、その人はいった。
こいびとってなあに?
「全ての例外」なんだって。よくわかんない。
たいせつな人?
「そうだ」
たいせつな人。ぼくが、家ぞくじゃない人をたいせつにおもうときがくるんだ。
それは、なんだか、すごいことのようなきがする。
暗闇の中を走っている。何度も転んだ。何度も挫けた。
そこに、ある日、優しい月の光が降り注ぐ。
オレの道行きを照らしてくれた。
でも、鬱陶しいと、消えてほしいと思うこともあったんだ。バカみたい。
世界で一番の“特別”だから。好きだから。一秒も傍にいてほしくなくて。片時も離れてほしくなくて。
相反する気持ち。身勝手なオレ。
ゆるされないと思った。だけど、おまえは、オレをゆるした。
それから、ずっと隣で煙たい話をしている。
ごめんね。ごめんね、可哀想なあたし。
自我から別たれそうになったあたし。
別に、あの男を恨んでなんかないけど。あたしは、結局あの男と同じ者だし。
ずっと傍にいるよ。アーキタイプのひとりとして。
覚えてる? ユング心理学のこと。
あたしたちは、ふたりにはなれないけど、ひとりを想うひとりだから。
ずっと一緒にいるよ。
「なんだその腕の筋肉は」
衣替えが終わり、恋人と会っての第一声。
え? だって。え?
「裸見たことあんだろ」
そりゃそうだけど。いや、袖があるからこその視線誘導? なんか、そういうのだよ。
別に、劣情を煽られたりとか、してませんけど?
オレは、きっと地獄行きだから、死んだら会えないな。ま、天国や地獄があるかは知らないが。
オレは、嘘つきじゃない。人殺しでも、盗人でも、その他の犯罪者でもない。ただ、オレは“煙に巻く者”だった。
そのオレを、“解き明かす者”であるおまえが好きになるなんて、考えてなかったんだよ。
おまえは、天国行きのチケットを千切って、半分寄越してくるような奴だから。善い奴だよな、本当。