おまえは、いつも犯人だが、悪人じゃない。
単純な癖に複雑怪奇で、自罰的な男だ。ずっと、この世から消えたいと思ってる。
そんなおまえを、傲慢かもしれないが、救いたくて。この手を伸ばす。
それを掴んでくれたことは、本当に嬉しかった。でも、俺はまだ、おまえを救い切れていない。
ずっと側にいてほしいと、おまえは言った。今すぐ自分の前から消えてほしいと、おまえは言った。
俺は、ただ、おまえに生きていてほしくて、離れずにいる。
結局、俺のエゴなんだろうな。
流星への願いは、ひとつ。
「オレを、消せ」
その願いは、少し歪んで叶った。オレは、透明人間になったのである。
意識も消してくれよ。存在を消してくれよ。
特にしたいこともないので、オレは、おまえの後ろを歩く。
すぐに分かった。オレのことを捜してるって。
でも、見付かるはずがない。なんせ、オレは透明だから。
毎日、毎日。おまえは、オレを捜す。
いくら、おまえが名探偵でも、流石に透明なオレを見付けるなんて無理だろ。
そう思っていた、ある日。
「そこにいるのか?」
虚空に向かって、おまえがそんなことを言うもんだから、幽霊みたいになったオレは、元から色のないそれを、両目からこぼした。
決まりごとってのは、上手くすり抜けるためにあると思うんだ。
そう言ったら、おまえは、「危険思想だ」と苦笑いを浮かべて、オレに呆れたな。
正しいかもな。いや、おまえは、“いつも正しい”よ。
そして、オレは、“いつも間違っている”んだ。
そういう、世界の摂理だから。
名探偵のおまえは、犯人のオレを、どうしたい?
きっと、ルールに従えって言うんだろうな。
あさ、めをさます。
おそらは、はれ。
でも、なんだろう? おれは、ないてる。
「おはよう」
「……だあれ?」
きみは、だれ? しらない、おとなのひと。
「俺は…………」
「ねぇ、なみだのとめかた、しってる?」
「……悪い。知らない」
「そう…………」
きみが、どうしてそんなかおをするのか、おれにはわからない。
間違いじゃないものを挙げる方が、楽だと思う。
オレの、おまえに対する感情は、きっと始めから間違いだった。“好き”だけが肥大していくオレは、醜い芋虫みたい。おまえに触角を伸ばしている。
だけど、それでも、おまえは隣にいた。
いつか、オレもおまえみたいに善くなれるだろうか?
その時まで、傍にいてほしい。