なんで泣いてるんだろう?
オレは、どうしたんだ?
ただ、そう、心にぽっかりと穴が空いたような気持ちになって。気付けば、涙が落ちていた。
大切な何かを失ったような気がしている。
大切な誰かを忘れているような気がしている。
煌めく雫のように、手のひらからこぼれてしまったものは、なんなのだろう?
もう、何もいらなかった。どうせ、いつか奪われるのだから。
それなのに、オレは、他者を求めてしまった。おまえだけが、例外で。欲しくて欲しくて、堪らない。
両親を奪われ、日常は瓦解し。平和は崩れ去り、子供が戦っている。こんな、クソみたいなオレたちの世界。
その残酷さを、おまえは分かっているはずなのに、平然と日々を送っている。きっと、それは強さなんだろうけど。オレには、恐ろしく感じる。
いらないはずだったのにな。そんな覚悟は。
未来から、オレがやって来た。
「未来のオレとアイツが、どうなってるか知りたいか?」
未来のオレは尋ねる。
もちろん、オレは「知りたくない」と答えた。
オレは、答えとか結果とか真実とかを知るのが怖いのだ。だから、哲学やってんだよ。
「そうだと思った」と、未来のオレ。何しに来たんだ? コイツ。
「答えから遠ざかるのが大好きだもんな、オレは」
でも、そうだ。未来から、オレが来たということは、オレとアイツが、まだ一緒にいるのだろう。
だって、幸せなら、何も知りたくないオレに会いに来れるもんな。
気付けば、オレたちは、色のない世界にいた。
「ここは、昔のオレの世界みたいだな」
オレは、呟くように言う。
「おまえと出会う前、オレの世界はこんな感じだった」
彩度と明度が低く、無味乾燥な世界。それはそれは、つまらなくて、みんなが敵のように感じていた世界。
「いつも、“外”が大嫌いだったよ」
おまえとの邂逅は、色彩との出会いだった。人生の光が、おまえだから。
「さて、どうやったら戻れるのかな?」
犯人であろうオレは、名探偵に、そう訊いた。
散らない桜を作ることに成功した。
「桜が散らないなら、その方がいいだろ」と、オレはおまえに言う。
しかし、おまえは、命には限りがあるから、向上心が宿るんじゃないかと返した。
「花が散らない世界は、停滞するって? オレは、そうは思わないな。永遠を手に入れて初めて、オレたちには余力が生まれるんだよ」
まあ、そんなものは仮の話。
でも、こういうことを言えるのも、余裕があるからなんだよな。