「あたしのことを覚えてる?」
覚えてるよ、クソ女。
「あたしは、あなた。あなたは、あたし」
そうだな。オレは、女だったら、年下だったらとか、そんなことを考えて、おまえを生み出した。
でも、おまえとは、「さよなら」したじゃねぇか。
「ここはね、あなたの夢の中だよ」
おいおい。勘弁してくれ。
「あなた、未練があるの。まだ、女だったらよかったのにとか、年下だったらよかったのにとか、考えてるの」
あーやだやだ。オレは、おまえが嫌いだ。
「あたしに人生を明け渡すのが嫌なら、しっかりしなさい」
はいはい。オレは、オレが大好きだよ。嘘じゃない。
このメンドクサイ人間を、アイツは愛してるんだ。だから、オレもいつかは、どこかへ辿り着いて、アイツを愛するんだよ。
永劫の片想い。オレのひとり遊び。恋愛ごっこ。
実らないはずの恋は、楽しかった。
一方的に、おまえに強い感情を抱いている。オレは、この感情に“恋”と名付けた。
でも、おまえにフラれた時に言ったよな? こんなのは、“祟り”なんだって。
オレは、延々と、おまえを祟っている。
どうか、振り向かないでくれ。
振り向かれたら、オレは、どうしたらいいのか分からなくなるから。
神様に人生相談したら、「好きな人のことを神様にするな」と言われた。
オレは、少し納得いかなかったが、頷く。
そうか。オレは、おまえを“神様”にしてしまっていたのか。
確かに、オレは、おまえを信仰している。だから、オレの理想のおまえから外れたら、おまえのことを憎むのだろう。
やっぱり、オレの恋は祟りだな。
空は、こんなに晴れているけど。ひまわりが太陽に向かって咲き誇っているけど。
オレの心の中には、暗雲が立ち込めていて、どしゃ降りの雨だ。
だって、おまえが、ひまわり畑に消えてしまったから。
探しても、探しても、見付からない。オレの大切な人。
おまえがいない晴天より、おまえが隣にいる嵐の中の方がいい。
だから、ずっと探している。
友人は、「もうやめなよ。見てらんないよ」と言った。
やめられるワケがない。
生きる意味がなくては、立っているのも億劫なんだよ。
今は遠く。生まれ故郷を去り、親戚の元へ身を寄せてから、一週間。
故郷には、もう何もない。両親は、もういない。
だから、離れたはずなのに。何か、おかしい。
オレは、何故か君のことばかり考えている。
「あ…………」
そうか。これって、恋なんだ。
気付いてからは、怒涛の勢いだった。
君は、遠くにいるけど、会いに行けない距離じゃない。オレは、君に会いたい。
それだけで、行動するには充分だった。
電車を乗り継ぎ、故郷へ向かう。
君に会えたら、なんて声をかけようか?