dokudoku

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5/21/2024, 1:49:15 PM

【透明】

「ねぇねぇ!透明って何色にも染められるって言うじゃん?透明ちゃんは私の好きな青色にもなれるの!?」
そう大きな声で問い、一際目立っている彼女は葵という名のクラスメイトだ。さっきまでザワザワしていたクラスはまるで先生に怒鳴られた後のように静まりかえった。全員息を飲み透明ちゃんの答えに耳を澄ます。
「透明って色じゃないんだよね。概念なの。だから何色にも染められるってのは少し違うかな。」
彼女の声は澄んでいてとても良く通る。
「そっか…染められないんだ…」
さっきまでぴょんぴょん跳ねて元気だった葵は、肩をなでおろし目に見えて落ち込んでいた。
「海って透明でしょ?でも空の色で反射して水色になってるよね。その原理で言えば私に青いライトを当てれば染められるんじゃない?」
透明ちゃんがそう言った瞬間、葵はパッと顔が明るくなりさっきまでの落ち込みが嘘だったように飛び跳ね始めた。
「ほんとに?!やったやった!!ちょっとまってて!」
そう言い残すと葵は走って教室を出ていった。
コロコロ機嫌が変わる様子を一部始終見ていたクラスメイトは、いつもの事と言わんばかりに驚くものは一人もいない。そんな事よりも透明ちゃんが染められるという話題ばかりに気を取られていた。透明ちゃんはその名の通り透明だ。太陽の光によって透明具合は変わってくるが、ある日は存在自体が見えず、またある日は体の内側まで丸見えだった。そんな透明ちゃんは、1年前にこの学校に来た。いつの間にか馴染んでおり、いつどこから来たのか覚えているのは数人しか居ないのが不思議だ。
しばらくして、息を切らした葵が帰ってきた。その手にはライトと青色のガラスペーパーがあった。
「持ってきたよ!!今から照らすね。」そう言い、葵はガラスペーパーの上からライトを照らし、透明ちゃんに光を向けた。まるで世界の心理を見ているように、目が釘付けになった。自分の胸がじわじわと熱くなってくる。綺麗…それしか考えられないほど透明ちゃんは美しかった。
あれから半年後、透明ちゃんはクラスに馴染んだのと同じように、いつの間にかクラスからいなくなっていた。1年後に、それとなくクラスのみんなの話題に上がり、先生にどこに行ったのか聞いてみる。「透明ちゃん…?って誰のことかしら。ここ2年で転入・転校した子はいないわ。」と何を言っているのか分からないと含まれているような心底不思議そうにそう言った。
その時クラスのみんなは耳を疑ったが、5年もの月日が経つと透明ちゃんを覚えている人は誰もいなかった。
あの時全員が見ていた透明な人はなんだったのだろうか。

5/15/2024, 8:59:15 AM

風に身を任せ

そこは…闇より深く暗く窮屈な世界だった。
抜け出したい…自由になりたいとその二つの思考が毎日繰り返し頭によぎる。
それ以外考えられず…いや考えられなかったのかもしれない、そんな日々が続いていく。
窮屈な世界には重みがあった。まるで終わらない組体操のように何層にも自分と同じようなものが積み重なっていた。視界は変わらないまま軽くなったり重くなったりを繰り返す。
そんなある日の事、突然に日常が崩れた。
いつもと変わらないずっしりとした感覚はなく、どこか浮憂感がある。一定の速度で上下に揺らされたかと思えば、急に止まったり、、とにかく初めての感覚で戸惑いが隠せなかった、
その時闇より深く暗かった普段の情景は突如として無くなった。
それは私がずっと待ち望んでいた世界だった。
少ししつこいくらいに光り続けている世界に私は今飛んでいる。
目の前にあるのかと錯覚するくらい光り続けている太陽の存在を忘れるくらいに風が気持ちいい、
どこに向かっていくのかも、これからどうして行くのかも何も決まっていないが、何故か不安はなかった。
風に導かれるままにどこへ終点として向かうのか。そんな事を考えるだけで今はきっと世界中の誰よりも満喫してるのだろう。




補足・ 積み重なった資料の1枚の紙が飛ばされる物語
です。