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【透明】

「ねぇねぇ!透明って何色にも染められるって言うじゃん?透明ちゃんは私の好きな青色にもなれるの!?」
そう大きな声で問い、一際目立っている彼女は葵という名のクラスメイトだ。さっきまでザワザワしていたクラスはまるで先生に怒鳴られた後のように静まりかえった。全員息を飲み透明ちゃんの答えに耳を澄ます。
「透明って色じゃないんだよね。概念なの。だから何色にも染められるってのは少し違うかな。」
彼女の声は澄んでいてとても良く通る。
「そっか…染められないんだ…」
さっきまでぴょんぴょん跳ねて元気だった葵は、肩をなでおろし目に見えて落ち込んでいた。
「海って透明でしょ?でも空の色で反射して水色になってるよね。その原理で言えば私に青いライトを当てれば染められるんじゃない?」
透明ちゃんがそう言った瞬間、葵はパッと顔が明るくなりさっきまでの落ち込みが嘘だったように飛び跳ね始めた。
「ほんとに?!やったやった!!ちょっとまってて!」
そう言い残すと葵は走って教室を出ていった。
コロコロ機嫌が変わる様子を一部始終見ていたクラスメイトは、いつもの事と言わんばかりに驚くものは一人もいない。そんな事よりも透明ちゃんが染められるという話題ばかりに気を取られていた。透明ちゃんはその名の通り透明だ。太陽の光によって透明具合は変わってくるが、ある日は存在自体が見えず、またある日は体の内側まで丸見えだった。そんな透明ちゃんは、1年前にこの学校に来た。いつの間にか馴染んでおり、いつどこから来たのか覚えているのは数人しか居ないのが不思議だ。
しばらくして、息を切らした葵が帰ってきた。その手にはライトと青色のガラスペーパーがあった。
「持ってきたよ!!今から照らすね。」そう言い、葵はガラスペーパーの上からライトを照らし、透明ちゃんに光を向けた。まるで世界の心理を見ているように、目が釘付けになった。自分の胸がじわじわと熱くなってくる。綺麗…それしか考えられないほど透明ちゃんは美しかった。
あれから半年後、透明ちゃんはクラスに馴染んだのと同じように、いつの間にかクラスからいなくなっていた。1年後に、それとなくクラスのみんなの話題に上がり、先生にどこに行ったのか聞いてみる。「透明ちゃん…?って誰のことかしら。ここ2年で転入・転校した子はいないわ。」と何を言っているのか分からないと含まれているような心底不思議そうにそう言った。
その時クラスのみんなは耳を疑ったが、5年もの月日が経つと透明ちゃんを覚えている人は誰もいなかった。
あの時全員が見ていた透明な人はなんだったのだろうか。

5/21/2024, 1:49:15 PM