C組の山田くんとB組のあの子の糸が早く切れますように
二人で買ったマグカップ。
お揃いにしたのに、このマグカップ置いていっちゃったね。
早く家に取りに帰ってきてね。
いつも片方だけが使われてて、もう片方のマグカップが可哀想なの。
何ヶ月も中身が空っぽで、マグカップも泣いてるよ。
前みたいに二人でであったかいココアを飲みたい。
また一緒に使える時はくるのかな。
ずっと待ってるから。
もしも君が髪が短い女の子が好きだと言ったら
迷わずこの長い髪を切るわ
もしも君がいつも笑っている子が好きだと言ったら
どんなに嫌なことがあったとしても絶対に口角を下げないわ
もしも君が頭がいい子が好きだと言ったら
部活なんてすぐに辞めて、平日も休日も毎日図書館に通って勉強するわ
もしも。
もしも君が隣のクラスのみくちゃんが好きなら。
私がみくちゃんになってみせるわ。
サラサラのタッセルボブで、白く透き通った肌。
頭が良くて友達想いなみくちゃん。
先生からも評価が高くて男女共に人気者なみくちゃん。
…私とは真反対ね。
みくちゃんが友達と笑顔で話しながら廊下を歩く。
廊下でみくちゃんとすれ違うと、君はすぐ振り返ってあの子の後ろ姿を見ている。
「分かりやすいのよ。ほんと。」
帰り道、近所の公園のブランコで私は君のことを考える。7時なのにとても明るく、家にはまだ帰りたくないという気持ちになる。
「あ、口角上げなきゃ。笑顔笑顔」
みくちゃんはいつも笑顔だった。
辛くても我慢して、努力を欠かさなかった。
沢山の人と良好な人間関係を築いて、信頼を得た。
毎日毎日勉強を続け、成績上位を保ち続けた。
みくちゃんは私の親友だった。
だが、私の好きな人が親友の事を好きだということを知ってしまい、私はみくちゃんに話しかけなくなった。
みくちゃんは私に、くるみちゃん!と笑顔で話しかけてくれたのにそれを無視をした。
あの子の努力は私が1番知っているでしょ。
私はなんて酷い人間なんだろうと自分を責めた。
「冷静になれば分かったじゃない。」
私はみくちゃんにはなれなかった。
明日、みくちゃんに謝ろう。そして、好きな子が出来たことを話そう。
君には、私らしい私を見てもらえるように努力しよう。
私も、みくちゃんみたいな努力ができる人になりたいと思った。
美しい薔薇には刺がある。
棘も含め美しい。
「どうしてこの世界は、こんなにも汚いのかな。」
学校帰り、田んぼの脇の細い道を、自転車を押しながら胡桃(くるみ)がつぶやいた。
妬み、屈辱、強欲、承認欲求、独占欲、執着、憎悪___
この世界は、あまりにも気持ち悪すぎる。
それを聞いた幼なじみの凪咲(なぎさ)が、少し笑ってこう言った。
「人間はね、世の中の“仕組みを知りすぎたんだよ。」
「仕組みって?」
胡桃が首をかしげる。
「例えばさ、どうすればみんなに注目されるか、どうすればお金が稼げるか、どうすればあの子に勝てるか、どうすれば権力を持てるか.......
それって全部、“自分が満足する人生”を送るための計算だよね。その答えを、みんなもう知っちゃってるんだ。」
「知りすぎた、ってこと?」
「うん。たとえば、"目立ちたい”と思ったとき、どうすればいいか。
運動神経がずば抜けてるとか、めっちゃイケメンとか、面白いとか、
"こういう人が注目される”って、みんなもう分かってるの。
その条件に近づこうと必死になる。
だから汚い感情がむき出しになるんだよ。」
胡桃は静かに頷いた。
「たしかに。条件をクリアしないと、“価値がない”みたいに扱われるもんね。」
「そう。だからこそ、みんな自分のことばっかり考えて、誰かと関わるときも、“目的”がなきゃ関わらない。」
「ほんと、生きづらい世の中だよね。」
「うん。」
凪咲は遠くを見つめていた。
その目には、もう希望なんて残っていないようだった。
この世界は、汚れている。
泥水よりも、ずっと濁っていて、醜い。
人との関わりさえ、打算でできている。
誰かの視線の奥にはいつも「自分のため」が見える。
結局、みんな自分のことしか考えていない。
そんな世界に失望しながら、それでも私は、今日も必死に生きている。