もしも過去へと行けるなら
私達は、”JKっぽい”に縛られいる。
私。なんで皆と同じように楽しめなくなったんだろう。
高校生になると、中学の同級生のストーリーの雰囲気が変わっていく。系統がまとまっている雰囲気。オシャレなカフェ。流行りの加工。
もう、高校生なんだと思った。
休日だけじゃなくて、放課後も遊びに誘われた。
念願の女子高生が楽しかった。それから毎日遊びの予定が入るようになった。
遊ぶ時には必ず手元にはスマホがあって、遊び中に暇になると、スマホをいじる。誰がとかじゃなくて、みんな。もちろん私も。大体誰かとDMしてたり、TikTok撮ろと言われたり、写真を何枚も何枚も撮ったりした。
撮ったら自分の顔だけそれぞれ加工して、完成した1番盛れている写真だけを、本垢のストーリーにあげた。
私はTikTokを撮るのが苦手だけれど、撮ろと言われたら拒めなかった。振り付けをその場で見せられ、頑張って覚えた。慣れてないから、動きも表情も固くて、友達との差が凄くて、やっぱりTikTok撮るのって苦手だなっておもった。
「今これが流行ってるから食べに行こうよ」
「これみんなで作ろ」
「お揃いの服着てこの写真撮ろ」
女子高生はこういう事をして楽しんでいるんだなと思った。そして、こういう事をしなければいけないのかとも思ってしまった。
「JKなんだから、これからこういうのやりたいよね」
「それなー楽しみ」
「次遊ぶ時何する?」
私の鼓動が早くなる。
それは全部”流行りに乗る”という真似事で、実に典型的だった。
でも、時代は令和。流行りに乗らなきゃ生きていけない時代なんだから。
そう言い聞かせた。
結局、私だけが馴染めなかった。
元々私は人と関わるのが大好きだった。楽しかった。
でも今では人と関わるのが苦痛になってしまった。
人と関わると、私が傷ついてしまう。疲れてしまう。
そうなってしまうのなら。
友達の遊びの誘いを、全て嘘をついて断った。
そしたらみんなは、私のことをノリが悪いと判断した。
次第に私を遊びに誘わなくなった。
私は笑えなくなった。顔の筋肉が無くなったかのように口角が上がらなくなってしまった。
一点を見つめる。目線が変えられない。ぼーっとしてしまう。
周りとの差に気づいてしまった。
とうとう私は壊れてしまった。
私には何も無くなった。今まで築いてきた友情も。人望も。全て。
人と関わるのが疲れてしまうから、関わるのを辞めた。それ行動が私を救ったと思った。
でもそれは間違っていたのだろうか。何もかも我慢すればよかったのだろうか。
どうやって生きていくのか分からなくなった。
きっとこの先、今よりもっと苦しいと感じてしまう。
そうなったら私は、やっていけるのだろうか。
考えたくなかった。
もしも過去へと行けるのなら。
生きる難しさを知らなかった頃の私に、戻して。
戻してくれるなら、私はなんだってやる。
でも分かっている。そんな事してくれる訳が無いと言うことを。
「またいつか、会えるといいね」
ねえ、会えたよ。
夢の中で大好きな推しが出てきた。
私は夢の中で目が覚めると、推しの家のベッドに横になって寝ていた。推しの声が聞こえると思い周りを見渡すと、近くのゲーミングチェアでゲーム実況をしていた。
私はこれが夢だということに気づいたので、「ああ、夢なのか」とがっかりしたが、こんな機会滅多にないので、じーっと推しが実況している背中を見ていた。
数分で実況は終わり、みんなまたねーとあいさつをする。
ヘッドフォンを外す。ゲーミングチェアを降りてこっちを向いた。
「あ、起きた?おはよう」
推しにおはようって言われた。私は驚きと緊張で心臓の音が止まらなかった。
「あ、おはよう…ございます」
絶対に、顔が固まっていて強ばっていた。
私が緊張しているのが伝わったのか、アイス食べる?と言ってくれたので、ありがとうございます。というと、タメ語でいいよと言ってくれた。
推しの家で推しとアイスを食べる。タメ語で会話をする。でもタメ語なんて推しを実際に前にすると話せる訳がなく、ほぼ敬語だった。こんな経験二度とできないと思うと、テンションが上がって緊張が解けてきた。
だからいつも伝えられない感謝を伝えた。
「せなくんの配信いっつも見てて、ほんとにほんとに大好きで、特に先月の配信のホラゲーの配信大好きです!面白くてお友達とかにも見せたらみんなハマっちゃって!笑これからもずっと推しです!応援しています」
喋りすぎた…と少し恥ずかしくなった。
せなくんは、ははっと笑いながら「ありがとう笑こんなに面白い子が僕の視聴者にいたなんて笑笑」と言ってくれた。
その瞬間、せなくんには他にもファンが沢山いることを思い出した。私だけがせなくんの家にいて、一緒におしゃべりしているのに罪悪感が湧き、家に帰ろうと決意した。今ここはどこにあるか、私の家がどこにあるかなんて知らないけど。
「少しの時間だったけど話せてほんとに嬉しかった、ありがとうせなくん」
私はせなくんともう会えないと思うと一層帰りたくないという気持ちが強くなった。
目には涙が溜まる。それが溢れそうになるとせなくんは私の手を両手で握ってくれた。
「君に会えて良かった、ありがとう。今日のことは二人だけの秘密」
二人だけという言葉が嬉しかった。
私はうん!と元気よく返事をして、推しに手を振られながら玄関のドアを出た。
ドアを開けたその時、私はまたベッドで横になっていた。でもここはせなくんの部屋ではなく、私の部屋だった。現実世界に帰ってきちゃったかーと気分が下がってしまったが、推しと私の二人だけの秘密が出来たのが嬉しく、この夢はずっと忘れられない思い出になった。
友達に話したかったけど、せなくんに秘密と言われたので誰にも話さず、私と、私の推しだけが知っている秘密となった。
中体連を終え、大好きな部活を引退した。
志望校が決まり、新たな目標に向けて私は走り続ける。
走るのを辞められない。止まらない。
勝つのは私か。それとも…
私は絶対に負けない。
勝負の夏が始まる
願い事
『報われるまで努力できますように』