ひなまつり
お雛様の前にズラリと並ぶお菓子の数々。これはあたしにとって宝の山にしか見えない。
お雛様を飾る意味とか難しいことは置いといて、お菓子を食べられることが嬉しい。上機嫌でお菓子を頬張るあたしとお雛様の目が合う。お雛様が優しい笑顔を向けているように感じて「お雛様のおかげでお菓子いっぱい食べれるよ!ありがとう!」と言ってみた。
「あんたはもうちょっとお雛様の上品さを見習いなさい」
「げっ、聞かれた……」
後ろに居たお母さんが苦笑いしながらあたしの頭を撫でた。そんなあたしを見ながら、お雛様はお上品に座っている。
――あたしがああなるには、まだまだ時間がかかりそうだ。
たった1つの希望
物語が続く限り、僕はこの世界にまだ居られる。
文字を紡ぐ人、君が僕の希望だ。
日々家
欲望
まだ足りないと君は泣いた。
もっと欲しいと君は描いた。
描くのが怖いと君は怯えた。
好きに描いていた頃に戻りたいと君は消えた。
欲望の果てに、君は君の絵を取り戻した。
日々家
列車に乗って
キラキラ光るのは星だろうか。
それとも誰かの涙だろうか。
車窓から眺める夜空はいつもよりうんと美しかった。
ガタンゴトンと列車の音が辺りに響く。不思議と不快には感じない。
ふと、まるであの物語の銀河の中を走っているような気分になった。
しかし、りんごの匂いも野茨の花の匂いも私には届かない。
列車は私一人を、終着点まで運んでいく。
――あの匂いが分かっていたら、どこまでも一緒に行けていたのかもしれないね。
日々家
遠くの街へ
もしもどこにでも行けるのならば、
暖かな日差しの中、桜の花が見られる場所がいい。
どこまでも広がる紺碧の空と海が見える場所がいい。
枯れ葉が鮮やかに山を染める景色が見える場所がいい。
冷たくも優しい静けさを運ぶ風を感じれる場所がいい。
誰も私を知らない場所がいい。
日々家