溢れる気持ち
もしも貴方が優しい笑顔を浮かべて私の名前を呼んでくれたら、雨がぽつりぽつりと降り出し、眠る蕾達に合図を送るでしょう。
もしも貴方が私と同じ気持ちならば、雨は止み、次に太陽が顔を出し、じんわりと暖かくなる感覚と共に淡く美しい色に染まった花々が咲き誇るでしょう。
――私の世界に春が訪れるでしょう。
日々家
kiss
メイク中にふと中学生の頃に見た物語を思い出した。
――醜い野獣の姿にされた王子の呪いは、魔法のバラが枯れるまでに誰かを愛し愛されなければ解くことができない。
そんなの無理だと思いながら見ていたが、物語はハッピーエンドを迎えた。
幸せそうに唇を重ねる二人にその年頃が抱くであろう恥ずかしさより、見た目じゃなく心を好きになって触れ合える様を羨ましく感じたのを鮮明に覚えている。
私はメイクが好きだ。私に自信を持たせてくれるから。泣いていた私に背筋を伸ばす力を与えてくれたから。
「……もしも魔法で綺麗になってた場合、どうなるのかな」
馬鹿らしい。とすぐにその思考を止めてお気に入りのティントを手に取り、唇を彩る。
私は今日も私に魔法をかけて生きていく。
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加筆修正したものを再度上げさせていただきました。
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作中に例えに出させて頂いた物語の内容に間違いがあったため下げます。申し訳ございません。
ですが、書いたものに反応くださりありがとうございました。今後は気をつけます。
日々家
1000年先も
今日の空はどこまでも澄んだ青色を広げていた。
昨日、この世が終わるんじゃないかと思うくらいに激しく雨を降らせていたのが嘘のようだ。
草木に残る雫が朝日を反射して、世界をキラキラと輝かせている。窓を開ければ、雨に濡れた後の土の匂いが部屋に広がった。それはとても心地よく、思わず深呼吸して体に深く巡らせる。ふと視線を上に向けると、太陽が満足そうに輝いていた。
この先も、私達のことなんて気にもせず好きなように空は姿を変えていくのだろう。
ならば私もそれを見習い、今日は大好きなコーヒーを飲みながら好きに過ごそう。
さて、勝手に怠ける理由にされた空は怒るだろうか?それとも、そんなの慣れっこだと笑うのだろうか?
「ごめんなさい。でも良ければ一緒に怠けてちょうだい」
返事は当たり前のようにない。おとぎ話の主人公のような事をした自分に恥ずかしさを覚えた瞬間、ふわりと柔らかい風が頬を撫でる。
――まあ、たまにはいいか。と気持ちを落ち着かせ、私はお湯を沸かすためにキッチンに向かった。
お気に入りのコーヒーはいつもと変わらず美味しかった。
日々家
勿忘草
庭を眺めれば緑の中にぽつりぽつりと青が浮かんでいる。
春の柔らかな日差しに照らされ、優しく吹く風に揺れる姿はこちらに手を振っているようだ。
「プランターから出して育てると増殖して大変なことになる」と彼女が言っていたが俺はこの庭をもっとこの青で満たしたいと思っている。
彼女が好きな花だから、彼女が好きな色だから、窓を開けたらすぐに目に入るようにしたいから。
困ったように笑う顔が浮かび、それに「困るなら一緒に手入れをしてくれないか?」と届きはしない声で返した。
夏になれば庭から姿を消すだろう、けれど春にはまた姿を見せるだろう。
彼女を愛している事を忘れずにいられるだろう。
日々家