【冬のはじまり】
キミと初めて出会ったこの公園で俺はもう居ないキミを思い出す。
✻✻✻✻
初めて出会ったのは去年の春。
俺が大学2年生の頃。
キミはこの公園の桜の木の下にあるベンチに座って静かに泣いていた。
何時もならそんな人のことは構いもしないで素通りする俺だけどその日はどうしても声をかけなきゃ一生後悔すると本能が告げていた。
声をかけるとキミは何でもないと言った。
それはそうだ。初めて出会った相手にそんな理由を話そうとは俺も思わない。
「話してみたら楽になるかもしれないよ?」と俺はダメ元で最近全く動かしていなかった表情筋を最大限に動かし優しく微笑みながら話しかけてみると、キミは「そうかもしれないね。」と小さく笑った。
すうっと息を吸うとキミは言った。
「私ね、もうすぐで死ぬの。」
その時のキミは儚げで、直ぐにでも消えてしまいそうなほど危なげだったけど、とても美しかった。
今思えばその時から俺はキミに惚れていたのかもしれない。
キミはポツポツと話し始めた。
生まれた時から体が弱かったそうで小さい時から入退院を繰り返していた事。
その所為で学校にもあまり行けなかったと言う。
だが、今年3月。大学からの帰り道での事だ。
歩いていると、いきなり息苦しくなり胸が強く締め付けられるように痛くなった。立っていられなくなり通りすがりの人が救急車を呼ぼうとしたが、その時は暫くすると落ち着いたのでその人にお礼を言って帰った。
感じたことの無い症状だったのでそのことを家族に言うと病院に行こうと言われた為、病院に行くとここでは判断できないと言われ大きな病院に行き検査を行ったところ心不全と診断され余命僅か半年だったという事。何処か悪いのだとは分かっていたが余命宣告をされるとは思わず。自暴自棄になり取り敢えずこの公園に来たそうだ。
「ねぇ、何で私なんだろ。私、何か悪いことしたのかなぁ。」
泣きながらキミが言って俺は咄嗟に抱き締めたっけ。
それからキミが最後に恋をしたいという願いを叶える為に俺と付き合うことになった。
「ねぇ、簡単に自己紹介をしましょうよ!」
「ん。分かった。俺からでいいか?」
「うん!」
「えーっと、まず名前は橘 瑞稀だ。歳は19。誕生日、4月5日。家族構成は父親、妹。以上。」
「瑞稀かぁ、顔も凄い整ってるのに名前まで綺麗なんだね。」
「そりゃどうも。」
「私の名前は、三上 菫。年齢は19。誕生日11月14日。家族構成は、父、母。以上!」
「菫って綺麗な響きだな。キミにピッタリだ。」
それから俺は菫と4月には俺の誕生日を祝ってくれたり、遊園地に行ったり、お花畑を見に行ったり、と色々な所へと足を運んだ。少し寒くなってくると菫が俺に赤いマフラーを編んでくれた。
ずっと一緒に過ごしていく内にいつの間にか俺たちは本当にお互い惹かれあい、恋をした。
とても幸せだった。菫の余命のことも感じさせられないほどに。
だが、それも長くは続かなかった。
11月。菫の誕生日を菫の家族と祝っていた時の事だ。
菫の家族と談笑し、食事を共にしていた時。
菫は呼吸困難となり、胸の痛みを訴えた。
直ぐに救急車を呼び俺はキミと一緒に救急車に乗させて貰った。本当は菫の両親が乗るはずだったのだが、菫の両親も「菫と一緒に行ってあげてくれ。」ということで乗させて貰った。
病院に着くと治療が開始されようとしたが菫のステージがDの為薬等の治療改善は出来ないと言われた。
その後菫は入院生活を送ったが目に見える程日に日に衰弱していった。
最近はずっと寝ていて、このまま目を開けないのでは無いかととても怖かった。
それから少しして菫は目を覚ました。
俺を見てから少し微笑んだ後、
「今まで有難う。貴方と過ごした時間は、自分がもうすぐ死ぬことなんて忘れちゃうくらい、楽しかったよ、私は、居なくなるけど、ちゃんと私の分まで生きるんだよ?早くこっちに来ちゃ、ダメだからね、」
と、とても弱々しい声でそう言った後静かにキミは永遠の眠りについた。
泣いている俺にキミの両親は言ったんだ。
「あの子、余命宣告を受けていた半年よりも3ヶ月以上長く生きられたんだよ。それはキミのお陰だ。有難う。」
って。
本当に泣きたいのは自分たちのほうだと思うのに、こんな俺を慰めまでしてくれた。
涙が止まらなかった。
✻✻✻✻
「会いたいよ、すみれ、」
空から舞い落ちる雪を見上げて菫が雪の妖精になって降りてこないかなぁなんて馬鹿なことを思いながらそう呟く。
そんな時だ。
「大丈夫、私はここに居るよ!元気だして!」
と居るはずのないキミの声が空から聞こえた気がした。
このままではいけないと思いパンっと頬を叩く。キミの編んでくれた赤色のマフラーを巻き直してから
「よし。」
と気合を入れて歩き出す。
――君のいない、冬のはじまり。
凄く軽めの男同士の恋愛モノを書きました。
兄弟ものです。
気分を害される方もいるかもしれませんが、
誰か、見てくれると嬉しいです⸜(*ˊᗜˋ*)⸝
✻✻✻
【終わらせたくない】
兄さん、好きだよ。
兄さんの低くて心地よい声も。
僕に向けてくれる優しい笑顔も。
変なところで鈍臭いところも。
全部、全部愛してるよ。
あぁ、この気持ちを貴方に伝えられたらどんなに楽なんだろう。
でも迷惑かな。僕のこと気持ち悪いって思う?
それでも僕、あなたのことが本当に好きなんだ
もし、この気持ちを伝えたら
貴方ははとても優しいから僕のことを傷つけないように遠回しに断るのかな?
それとも、本気にしないで
「冗談やめろよ」って笑う?
どちらにしろ、今までの関係ではいられなくなる。
ずっと、このまま近くで貴方を見ていたい。
終わらせたくないなぁ、この恋。
【愛情】
私は元から親というものがいなくて、施設で育った。施設の大人は他の子には優しかったけれど、私には厳しくて悲しかった。
学校の参観日の日に他の子達はお母さんとお父さんが来ていて皆、楽しそうに笑って「――ちゃんのお母さん可愛いね!」とかそういう何気ない会話を出来るのがとても羨ましかった。
私は親がいないせいか、見窄らしい服を着ていたからか分からないけどクラスの人達に虐められて苦しくなって先生に相談したらどうにかしてくれるかもしれない。そんな希望を胸に職員室へと向かった。
デスクに向かっていた担任の先生に声をかけ相談すると面倒くさそうに「君に至らないところがあるから虐められるんじゃないのか?」と言われて何で、助けてくれないの?全部私が悪いの?と、目の前が真っ暗になった。
そんな私も高校に入ってから仲のいい男の子がいて、私は初めて恋をした。それからは楽しかった。2人で色んなところに行って美味しいものを食べたりもして、自分がこんなに幸せでもいいのかと心配になるくらい今まで真っ暗だった私の世界が一気に輝いていた。
私たちが大学を卒業して暫く経ったある日彼が「愛してるよ。これからはずっと一緒だ。」と、言って抱き締めてくれて私はとても嬉しくて直ぐに抱き締め返して私達は婚約をした。
――それなのに、もうすぐ結婚式という日に彼は車に轢かれそうになった見ず知らずの子供を庇って死んでしまった。
子供が助かってよかったじゃんと思えればよかったけれどその時の私はそんな事を考えられなくて毎日毎日、泣いて泣いて。
食べるのも嫌になってこのまま死んだら彼に会えるかも、と何度も思っていた。そんな時貴方に出会った。
貴方は夜中の歩道橋で上に立って道路を見つめていた私に優しく声をかけて家に招いてくれて、暖かいご飯を作ってくれて同情心だと思ったけどその時の私は何処か安心してしまっていた。そんな私に貴方は一緒に暮らさないか?と言ってくれて最初は戸惑ったけれど悪いことはないかもと思って「はい!」と返事をして一緒に暮らすことになった。毎日毎日、暖かいご飯を作ってくれて。とても嬉しかった。
過ごしていく内に前までは死にたい程感じていた悲しみが貴方のおかげで埋まっていく感じがして、私はいつの間にか貴方に惹かれていった。
薄々、気付いてはいたけれどそれを自覚したら何かが変わってしまう気がして怖かったの。だから貴方が「愛してる」と告白してくれた時、彼が死んでしまった時の恐怖を思い出してしまってとても嬉しかったのに断ってしまった。そんな私に貴方は悲しそうに笑って「いいんだよ。これから君に好いてもらえるように俺が頑張るから。」と言ってくれた。
…貴方は私をずっと離さないでいてくれる。どうしても気になって「どうして見ず知らずの私にこんなに優しくしてくれたり好意を持ってくれたの?」と聞いた時。
「あの日、歩道橋にいた君を見た時に今君に話しかけなかったら一生後悔すると思った。最初はそれだけだったんだけど、一緒に過ごしていくうちに道端に咲いてる花をわざわざ避けて通ったり、街を歩くと色んな人を助けている君を見ているうちにずっと側にいてほしいと、心から感じたからだよ。」
そう言ってくれた貴方に私は、どうせ貴方も彼と同じように私を置いて逝ってしまうのでしょう?と考えてしまっていた。普通の人だったらきっともうこんな私に呆れて離れていくだろう
なのに貴方は愛情に応えない私に呆れることも無く、私に向けるにはもったいないくらいの愛情をくれた。
そして弱虫な私はやっと貴方に私の気持ちを伝えた時にはとても嬉しそうに抱き締めてくれて私はそんな貴方を抱き締め返してとても素敵な夜を過ごしましたね。
それから貴方と付き合い始めて暫くした時、綺麗な夜景をバックにプロポーズをしてくれて私はそれに泣きながら返事をしたことを今でも覚えています。
貴方との結婚式が終わって、何度も愛を確かめあって、子供にも恵まれて、
私は、今とても幸せです。
こんなしょうがない私を愛してくれて有難う。
最期の相手が貴方で良かった。
そう思いを馳せながら私はもう二度と空くことはないであろう目を閉じた。