翠-Sui-

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【愛情】

私は元から親というものがいなくて、施設で育った。施設の大人は他の子には優しかったけれど、私には厳しくて悲しかった。

学校の参観日の日に他の子達はお母さんとお父さんが来ていて皆、楽しそうに笑って「――ちゃんのお母さん可愛いね!」とかそういう何気ない会話を出来るのがとても羨ましかった。


私は親がいないせいか、見窄らしい服を着ていたからか分からないけどクラスの人達に虐められて苦しくなって先生に相談したらどうにかしてくれるかもしれない。そんな希望を胸に職員室へと向かった。

デスクに向かっていた担任の先生に声をかけ相談すると面倒くさそうに「君に至らないところがあるから虐められるんじゃないのか?」と言われて何で、助けてくれないの?全部私が悪いの?と、目の前が真っ暗になった。

そんな私も高校に入ってから仲のいい男の子がいて、私は初めて恋をした。それからは楽しかった。2人で色んなところに行って美味しいものを食べたりもして、自分がこんなに幸せでもいいのかと心配になるくらい今まで真っ暗だった私の世界が一気に輝いていた。

私たちが大学を卒業して暫く経ったある日彼が「愛してるよ。これからはずっと一緒だ。」と、言って抱き締めてくれて私はとても嬉しくて直ぐに抱き締め返して私達は婚約をした。

――それなのに、もうすぐ結婚式という日に彼は車に轢かれそうになった見ず知らずの子供を庇って死んでしまった。

子供が助かってよかったじゃんと思えればよかったけれどその時の私はそんな事を考えられなくて毎日毎日、泣いて泣いて。

食べるのも嫌になってこのまま死んだら彼に会えるかも、と何度も思っていた。そんな時貴方に出会った。

貴方は夜中の歩道橋で上に立って道路を見つめていた私に優しく声をかけて家に招いてくれて、暖かいご飯を作ってくれて同情心だと思ったけどその時の私は何処か安心してしまっていた。そんな私に貴方は一緒に暮らさないか?と言ってくれて最初は戸惑ったけれど悪いことはないかもと思って「はい!」と返事をして一緒に暮らすことになった。毎日毎日、暖かいご飯を作ってくれて。とても嬉しかった。


過ごしていく内に前までは死にたい程感じていた悲しみが貴方のおかげで埋まっていく感じがして、私はいつの間にか貴方に惹かれていった。

薄々、気付いてはいたけれどそれを自覚したら何かが変わってしまう気がして怖かったの。だから貴方が「愛してる」と告白してくれた時、彼が死んでしまった時の恐怖を思い出してしまってとても嬉しかったのに断ってしまった。そんな私に貴方は悲しそうに笑って「いいんだよ。これから君に好いてもらえるように俺が頑張るから。」と言ってくれた。


…貴方は私をずっと離さないでいてくれる。どうしても気になって「どうして見ず知らずの私にこんなに優しくしてくれたり好意を持ってくれたの?」と聞いた時。

「あの日、歩道橋にいた君を見た時に今君に話しかけなかったら一生後悔すると思った。最初はそれだけだったんだけど、一緒に過ごしていくうちに道端に咲いてる花をわざわざ避けて通ったり、街を歩くと色んな人を助けている君を見ているうちにずっと側にいてほしいと、心から感じたからだよ。」


そう言ってくれた貴方に私は、どうせ貴方も彼と同じように私を置いて逝ってしまうのでしょう?と考えてしまっていた。普通の人だったらきっともうこんな私に呆れて離れていくだろう

なのに貴方は愛情に応えない私に呆れることも無く、私に向けるにはもったいないくらいの愛情をくれた。

そして弱虫な私はやっと貴方に私の気持ちを伝えた時にはとても嬉しそうに抱き締めてくれて私はそんな貴方を抱き締め返してとても素敵な夜を過ごしましたね。


それから貴方と付き合い始めて暫くした時、綺麗な夜景をバックにプロポーズをしてくれて私はそれに泣きながら返事をしたことを今でも覚えています。

貴方との結婚式が終わって、何度も愛を確かめあって、子供にも恵まれて、

私は、今とても幸せです。


こんなしょうがない私を愛してくれて有難う。


最期の相手が貴方で良かった。


そう思いを馳せながら私はもう二度と空くことはないであろう目を閉じた。

11/28/2023, 7:23:50 AM