【冬のはじまり】
キミと初めて出会ったこの公園で俺はもう居ないキミを思い出す。
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初めて出会ったのは去年の春。
俺が大学2年生の頃。
キミはこの公園の桜の木の下にあるベンチに座って静かに泣いていた。
何時もならそんな人のことは構いもしないで素通りする俺だけどその日はどうしても声をかけなきゃ一生後悔すると本能が告げていた。
声をかけるとキミは何でもないと言った。
それはそうだ。初めて出会った相手にそんな理由を話そうとは俺も思わない。
「話してみたら楽になるかもしれないよ?」と俺はダメ元で最近全く動かしていなかった表情筋を最大限に動かし優しく微笑みながら話しかけてみると、キミは「そうかもしれないね。」と小さく笑った。
すうっと息を吸うとキミは言った。
「私ね、もうすぐで死ぬの。」
その時のキミは儚げで、直ぐにでも消えてしまいそうなほど危なげだったけど、とても美しかった。
今思えばその時から俺はキミに惚れていたのかもしれない。
キミはポツポツと話し始めた。
生まれた時から体が弱かったそうで小さい時から入退院を繰り返していた事。
その所為で学校にもあまり行けなかったと言う。
だが、今年3月。大学からの帰り道での事だ。
歩いていると、いきなり息苦しくなり胸が強く締め付けられるように痛くなった。立っていられなくなり通りすがりの人が救急車を呼ぼうとしたが、その時は暫くすると落ち着いたのでその人にお礼を言って帰った。
感じたことの無い症状だったのでそのことを家族に言うと病院に行こうと言われた為、病院に行くとここでは判断できないと言われ大きな病院に行き検査を行ったところ心不全と診断され余命僅か半年だったという事。何処か悪いのだとは分かっていたが余命宣告をされるとは思わず。自暴自棄になり取り敢えずこの公園に来たそうだ。
「ねぇ、何で私なんだろ。私、何か悪いことしたのかなぁ。」
泣きながらキミが言って俺は咄嗟に抱き締めたっけ。
それからキミが最後に恋をしたいという願いを叶える為に俺と付き合うことになった。
「ねぇ、簡単に自己紹介をしましょうよ!」
「ん。分かった。俺からでいいか?」
「うん!」
「えーっと、まず名前は橘 瑞稀だ。歳は19。誕生日、4月5日。家族構成は父親、妹。以上。」
「瑞稀かぁ、顔も凄い整ってるのに名前まで綺麗なんだね。」
「そりゃどうも。」
「私の名前は、三上 菫。年齢は19。誕生日11月14日。家族構成は、父、母。以上!」
「菫って綺麗な響きだな。キミにピッタリだ。」
それから俺は菫と4月には俺の誕生日を祝ってくれたり、遊園地に行ったり、お花畑を見に行ったり、と色々な所へと足を運んだ。少し寒くなってくると菫が俺に赤いマフラーを編んでくれた。
ずっと一緒に過ごしていく内にいつの間にか俺たちは本当にお互い惹かれあい、恋をした。
とても幸せだった。菫の余命のことも感じさせられないほどに。
だが、それも長くは続かなかった。
11月。菫の誕生日を菫の家族と祝っていた時の事だ。
菫の家族と談笑し、食事を共にしていた時。
菫は呼吸困難となり、胸の痛みを訴えた。
直ぐに救急車を呼び俺はキミと一緒に救急車に乗させて貰った。本当は菫の両親が乗るはずだったのだが、菫の両親も「菫と一緒に行ってあげてくれ。」ということで乗させて貰った。
病院に着くと治療が開始されようとしたが菫のステージがDの為薬等の治療改善は出来ないと言われた。
その後菫は入院生活を送ったが目に見える程日に日に衰弱していった。
最近はずっと寝ていて、このまま目を開けないのでは無いかととても怖かった。
それから少しして菫は目を覚ました。
俺を見てから少し微笑んだ後、
「今まで有難う。貴方と過ごした時間は、自分がもうすぐ死ぬことなんて忘れちゃうくらい、楽しかったよ、私は、居なくなるけど、ちゃんと私の分まで生きるんだよ?早くこっちに来ちゃ、ダメだからね、」
と、とても弱々しい声でそう言った後静かにキミは永遠の眠りについた。
泣いている俺にキミの両親は言ったんだ。
「あの子、余命宣告を受けていた半年よりも3ヶ月以上長く生きられたんだよ。それはキミのお陰だ。有難う。」
って。
本当に泣きたいのは自分たちのほうだと思うのに、こんな俺を慰めまでしてくれた。
涙が止まらなかった。
✻✻✻✻
「会いたいよ、すみれ、」
空から舞い落ちる雪を見上げて菫が雪の妖精になって降りてこないかなぁなんて馬鹿なことを思いながらそう呟く。
そんな時だ。
「大丈夫、私はここに居るよ!元気だして!」
と居るはずのないキミの声が空から聞こえた気がした。
このままではいけないと思いパンっと頬を叩く。キミの編んでくれた赤色のマフラーを巻き直してから
「よし。」
と気合を入れて歩き出す。
――君のいない、冬のはじまり。
11/30/2023, 4:38:13 AM