春を待ちわびている。
世界が白やピンクに色づき始め
桜の蕾が膨らみ出すと
まだかまだかと期待が高まる。
それなのに。
桜の花が咲き始めると不安になる。
別れがすぐそこに見えている。
満開の桜。散りゆく桜。
美しさと儚さ。
待って待ってと願ってしまう。
もう少し、あと少しだけ。
そしてまた季節が巡って。
私は春を待ちわびている。
-行かないで-
ひこうき雲だ。
子どもの頃、ひこうき雲を見つけると
飛行機に向かって手を振っていたのを思い出す。
パイロットに声が届くと思っていた。
小さな体の小さな私から発せられた大きな声は
風に乗って、雲を突き抜けて。
星を伝って、銀河を超えて。
時を超えて、今の私に届いた。
おーい。こっちも元気にやってるよー。
-どこまでも続く青い空-
とうとう秋になってしまった。
クローゼットの奥から上着をひっぱり出して
あなたを想う。
人の心も簡単にしまい込めたらいいのにね。
あなたの事を思い出さないように
奥へ奥へ。
そこにあった事すら忘れてしまって
見つけ出せないくらいに。
そうしたら、次にひっぱり出した時には
思い切ってさよならできるかな。
またこの季節を好きになれるのかな。
-衣替え-
心を削るように歌う
あなたをずっと見ていた。
相手の目を見て話を聞くその横顔も。
優しい笑顔も。
時折見せる無の眼差しも。
いつかこうなる事も分かっていた気がするのに。
あなたを助けてあげられなかった。
あなたを助ける夢を見た事がある。
ゆっくり休んでほしい、と伝えるとあなたは
僕にそんな時間ないよ、知ってるでしょ?って。
笑って去ろうとする背中に私は叫ぶ。
生きていればいつか会える、
しばらく会えなくてもいいから生きていてほしい、と。
あなたはハッとして、優しく微笑んでくれた。
もう届かないその言葉を
今も天国のあなたに叫んでいる。
-声が枯れるまで-
11時。
朝でもない、昼でもない。
ちょっと置いてきぼりにされたような
この時間が好きだ。
カランコロンカラン。
昔からある喫茶店。
マスターがにこっと笑って、
「ご注文はコーヒー牛乳?」
「もう子どもじゃないってばー。
マスターのおいしいコーヒーください。」
私も笑って答える。
初めて一人で来た時はまだ中学生だった。
大人になった気分で背伸びしてコーヒーを頼んだ。
そんな私にマスターは生意気だと諌める事もなく、
温めたミルクと砂糖たっぷりの
コーヒー牛乳を出してくれた。
おいしくて温かくて、ここに居ていいよって言われたような気がした。
あれから何年だろう。
この居心地のいい喫茶店で
私はまた11時を過ごしている。
-始まりはいつも-