天真爛漫って言葉がぴったりの、汚いわたし。
真っ白い天使の左羽だって、もいで、ちぎって、めちゃくちゃにして、「ずっとそばにいてね」って。
痛かったけど、悲しかったけど、でもずっと私がいるよ、と言ってくれた。
あのとき、私は私に誓ったの。
内緒だよ。
【神様だけが知っている】
私は嘘がつけない。
「嘘だね」
と、嫌味ったらしく言われたところで返す言葉もないほどに。
湯気が出てしまいそうなほど上昇した体温と、たこのように赤く染まった頬がそれを物語っている。
彼はそんな私を見て、余裕の笑みを口元に浮かべ、紅色の面紐を人差し指にくるくると絡ませて遊んでいる。
小さな道場の中で、ひらひら踊るように揺れる紅色。
その赤に、私は不本意ながらもひと目で釘付けになった。
どんっと地面に踏み込む力強い音とともに、鮮やかな紅の面紐が揺れ、私の視線はそれを追いかけるように彼へと向かう。
絶対に言わない。
死んでも言ってあげない。
紅の糸に惑わされた、哀れで可哀想な私の初恋。
【赤い糸】
ちらちらと雪が降るなかを、2人で歩いた帰り道。
いつも2人で楽しく話しながら通るこの道も、今日はなんだかいつもと違っているように感じるのは、私と君との間に少しの緊張があるからなのか。
いつも隣を歩いているのに、少しだけ前を歩く君の背中はなんだか知らない人みたい。
自転車のペダルが無機質にからからとなっている。
どんな風に君の名前を呼んで、どんな会話をしていたのか、今日は何も分からなくなってしまう。
分からないから荷台を思い切り掴んで、強制的に進行を防いだ。
「プリン作った、から。食べる?」
目が泳ぐ。たどたどしく言葉を発するたびに、汗が吹き出して体が暑くなった。
「うん」
いつもよりぶっきらぼうな返事。交わらない視線。
今日はバレンタイン。
【バレンタイン】
目覚めの悪い朝。
検討はついている。
最近、夢に出てくる山田くんのせい。
山田くんというのは、私の初恋の男の子で、中学校時代の私の心を奪ったたった1人の男の子。
運動部だった痩せ型の彼は、クラスの中心的なグループにいつつ控えめで、そんなところが好きだった。
(1度も同じクラスになったことはない)
私はそれはもうたくさんアピールしたけれど(今思うとあんなに積極的なことは出来そうにない)、でも、山田くんは奥手だったので私たちは毎日メールを送り合うだけの仲だった。
卒業式の時に最後にもう一度「好き」と伝えると、「俺も好きだったよ」と言われた。
呪いみたいな言葉。
それから10年、私はたくさん恋をしたし、今は大好きな彼と同棲をしていて今年結婚をする。
彼も2年ほど前に地元から離れたところで、私の知らない人と結婚をしたと聞いた。
山田くん。
私はもう覚えてないよ、君の顔も声も。
ずぅっと前に忘れてしまった。
それなのに私に呪いをかけた君は夢の中に出てきて、もがいてもどうしようもない苦しさだけを残して消える。
とても身勝手だと思う。
【海の底】
ぬるい絶望のなかで生きてる。
泣くほどでもないような。まるで、38℃のお風呂みたい。
時々、泣きたくなる時がある。
それは、ぬるい絶望のなかで見つけた、あまりにもちっぽけな悲しみ。
涙が込み上げそうで胸が詰まる。
詰まるだけ。
絶望に浸って泣くには強くなりすぎた。
強くなりすぎちゃったな。
【柔らかい雨】