長袖のセーターで見えなくなるね、
わたしのひみつの真っ赤なおまもり。
大丈夫だよって、今なら言ってあげられるけど。
【冬になれば】
———人間ってのはね、天界から何らかの理由で降りてきた天使なんだよ!
なんてことを真剣に話す君を見て、僕は笑った。
本当だもん!と眉間にシワを寄せて怒る君。
でも、僕は話の内容に笑ったんじゃない。
自分では気付いてないだろうし、これからも教えるつもりはないのだけれど、君ってさ、熱が入ると鼻がぴくりと少し動くんだ。
それが僕はとても好きだ。
その無意識に動く鼻が、可愛らしくてとても好きだ。
君の話が本当だったとして、僕は天界から降りてきて良かったと心の底から思う。
だって君が人間だということは、天界に君はいないというだろう?
君がいない天界はさぞかしつまらないだろうね。
———もし神様が目の前に現れたとして、君を天界に戻してやろうと言っても、僕は丁重にお断りするよ。
僕は君の隣で、飛べない翼を持った天使でいたい。
【飛べない翼】
しとしとと降り始めた雨に少しだけ憂鬱な気持ちになりながら、骨の多い赤色の傘を差す。
勢いよく開く私の傘は、暗い景色に咲く花みたいになるだろう。
そんなところが気に入って、この傘を購入したのだ。
学校の玄関にある小さな階段の、下から2段分を飛んで着地したと同時に「美帆じゃん!」と軽い調子で声をかけられた。
振り返ると幼なじみの晃平。
「傘、入れてくれない?」
私の赤色の傘は、相合傘をするためには作られていないらしい。
いつも少しだけ窮屈になりながら、晃平を入れて歩いた。
持ち手は必ず晃平が持ってくれて、私にかからないように傾けてくれているので、別れの挨拶をするときにはいつも晃平の方が雨に打たれて濡れている。
私は知っていた。
晃平はいつだってきちんとしている人だということを。
毎朝必ず同じ時間に起きて、同じ時間に家を出ることを。
朝のニュース番組の星座占いまできちんと見て、順位が悪い日は少しだけ残念な気持ちになることを。
そして、いつでも折りたたみ傘を携帯していることを。
「あ、甘い匂い。イチジクかな?」
苔をたっぷりつけた土の匂いに加えて、弾けるようなイチジクと少しの青い匂い。
秋だな、と晃平が笑う。
私は晃平が好きだ。
【柔らかい雨】
128√e980
【愛言葉】
学校へ到着することには、鼻先がひんやりと冷たくなる季節。
どこからか金木犀の香りがする。
クリーニングのタグがついたジャケットと、アイロンがかかったパリパリのシャツ、折り目正しいプリーツスカート。
いつもより新鮮な空気を吸い込んでいるような気がする。
【衣替え】