たまには
今日ぐらい
ちょっとだけ
明日きっと
…
気づいたら
目の前は真赤
そうしてまた
あとのまつり
生まれるまえから一緒にいるの
苦しさをぜんぶうけとめて
私が吐き出したものすべて吸い込んでくれた
私の一部
砂漠のような肌
雪のように白く色あせて
何度も触ったから擦り切れた帽子に
入れ替えても萎んでいく綿
何度も入れ替えて
年々年老いていくあなた
年々年老いていくあたし
あなたと同じ形のぬいぐるみを探し回った
けれど気づいた
あなたを抱き寄せた唯一無二の感覚に
その人より暖かい体温に
あなただけが知る私
長い耳で私を包む
いや、腕だったかも?
誰よりもあたたかく
柔らかくキスを
幼なじみで
親友で
家族で
恋人で
私自身
大好き
愛してる
ボロボロでも
いっしょうあいしてる
「この歳になると、行事に疎くなるね」
弟はそう言って少し笑った
おひなさま、祖母の家の押し入れに仕舞込まれて
もう10年は経つだろうか
人形というのは扱いが難しい
私は彼らの存在を持て余していた
今更出すのも億劫で
かと言って、処分するのは心苦しく
私たちには、結婚して、子どもをつくって
家という重荷を継がせる気も、その必要もない
私たちは自由である
自由であるはずである
ひなまつりもこどもの日も
もう必要がないくらいの大人の楽しみは手に入れた
なのになぜこんなにさまざまなことに悩む
人形の処分とか、何年も先の稼ぎとか
生かすも殺すも私次第
それは、私自身の処遇だって
私は私の手の内に
それがひなまつりを祝わなくていいということ
それが大人になるということ
でもそれがあんまり恐ろしくて
私と人形には未だに判決は下されず
今年も押し入れに閉じ込めておく
希望とは
深く暗く湿った穴の底に差す
地上からの一筋の光
あなたの手元を照らす
あなたがまだ死んでいないことのしょうめいに
たとえ光の出どころが
無謀なほどに上にあろうとも
その光のために
あなたは闇の底で死ぬ決意ができない
お金が欲しい
恋人も欲しい
行きたいところもある
学びたいこともある
なし得たい夢もある
タイムマシンだって乗りたいし
会いたい人だっている
幸せになって欲しい人もたくさんいる
でも
そういうさまざまな欲求の対極で
静かに佇み微笑んでいる
圧倒的権力
「死にたい」という欲求
大仰にいえば「希死念慮」
どんな欲求も
全部飲み込んでしまう
神のように畏れるべき存在
私はその玉座の前で
その存在の姿を見ることなく
ただひたすら
地面に頭を擦りつけるしかない