運動会でゴールテープを切る瞬間
読書感想文と引き換えに貰える賞状
あの憧れの校門をくぐる権利
下駄箱に不慣れに突っ込まれる手紙
想い続けた人と並んで歩く休日
一番高い台の上で首にかけられるメダル
小さい頃になりたかった大人の自分
その総てが皆に平等に与えられるものではない
手にするのは選ばれし者だけだから
それは時に美しく
それは時に儚く
それは時に残酷
故に、我らは尊い
この世界で、生命を与えられた事でさえも
「−誰もがみんな−」
私達のあの丘の上で
色とりどりの野花を摘み取る
君に手渡した私の花束
君はそれをギュッと抱き締めた
君は毎日その花束を見つめ
慈しむように水を注ぐ
花瓶に満たされたぐらつく水の上で
花々はゆらゆらと揺れながら
君は花束に水を注がなくなった
水のやり過ぎは根を腐らせるから君は正しい
私は色褪せた一輪の花を見つけ
そっと花瓶から抜き取った
君は花束を眺めている
世界が終わったような顔をしている
萎びて痩せ細った花
また一枚の花弁が花瓶の側にはらりと舞う
君は花瓶が置いてある机に顔を寝かせ
ぱらぱらと落ちた萎びた花弁を見つめている
君の顔色は花弁の色と似ている
私は一枚の花弁を拾い上げ
口元に運んでそれを食む
味気のない花弁
口の中で粉々になる
そこに微かに残るあの丘の香り
君が去った世界で
君に送った花束を
私は今も噛み締めている
「−花束−」
精巧に出来た私の仮面
どうでもいい人に
どうでもいい私のそれを
タダ同然で売り飛ばす
だけど、君が見つけてくれた
私に価値をつけてくれた
私に対価を与えくれた
君だけに手渡せる
仮面じゃない本当の私
今ここで手渡す時
君に届けるだけの話
だけど
いざいざ君に手渡す時に
厚く重なった涙の化粧
仕方ないの、これが私
どうか、どうか、受け取って
「−スマイル−」
私の胸の奥の奥にこっそり仕舞っておいた秘事
どこにも書かない筈だったのに
気がついた頃には既に手遅れ
私の心の表側に
刻み込まれて消えてくれないその一文は
嗚呼、なんということでしょう
私の胸の奥の奥に
いつのまにか仕掛けた爆弾
だからどうか、愛しい君よ
私を覗かないでください
「−どこにも書けないこと−」
私は明日が大好き
ママもパパも、お友達も、先生も
チョウチョもお花も大好き
明日が来るのが待ち遠しくて
今日もせっせと時計の針を回す
チクタク、チクタク
***
私は明日が好き
でも、明後日はもっと好き
早く今日が終わらないかな
今日は授業で退屈
黒板になんて目線が合わないから
あぁ、今日は時計の針が進むのが遅いなぁ
チクタク、チクタク
***
私は、明日が少しだけ…
ずっと今日を噛み締めたい
時計の針はテッペンを回ってしまったけど
私が目を閉じなければ
いつまでもいつまでも今日のままなの
夜にぐずる私を横目に
時計の針は鳴り止まない
チクタク、チクタク
***
私は今日が嫌い
明日はもっと嫌い、大嫌い
明後日も、明明後日も、来週も
私の楽しい明日はどこ?
あぁ、あの子達は明日が楽しみなんて言ってら
時計の針をちょっと止めてみたけど
私の指は振り払われてしまった
チクタク、チクタク
***
嫌い、嫌い、嫌い
こんな日々は嘘
戻って、戻ってよ
私にあの日を返して
時計の針は、どうしたって戻らない
チクタク、チクタク
ガチャン!
***
駄目、もう駄目なの
どうしたって止まらないの
私の頭の中に流れてるの
壊したはずなのに!
もう動かないはずなのに!
嫌だ!嫌だ!嫌だ!
止まって!止まって!止まって!
進めないで!私を進めないで!
行かないで!行かないで!
時計の針は、止まらない
チクタク!チクタク!チクタク!
時計の針は、止まらない!
「−時計の針−」