『もしもタイムマシンがあったなら』
過去の自分に手紙を送りたい。
常日頃から母さんを労り、母さんからの愛を後悔ないくらい感じろ、と。
なぜ俺がそれほど過去に執着してるのか、それは4年前の。
夏のあの日だった。
花火大会でとても賑わっていた。
皆、楽しそうに花火大会を満喫していた。
母さんがどうしても花火大会に行きたいとせがむから仕方なく来たが思いの外楽しいひと時だった。
だが、母さんは今にも死んでしまいそうだったのに、それを隠して笑いながら線香花火をしていた。
俺の線香花火が落ちた時、静かにこの世を去ったかあさん。
許せなかった。
俺を
一人にしないで…
ほんとは強がってただけなんだ。
母さん、もう一度、母さんと線香花火したいな、
線香花火が得意だった母さん。
線香花火を見るたびに母さんの顔がフラッシュバックする。
もう、逃がしてよ。
思い出させないで。
もう、疲れたんだ。
今から、そっち、行くね。
もう、忘れたりしないから。
『今一番欲しいもの』
私が今、一番欲しいものはわからない。
人間は欲にまみれている。
人間は欲に忠実だ。
何か一つ、欲しいものをやるなんて言われたら大半は金、地位、名誉を求めるだろう。
だが、欲をほとんど持たない人間もいるのだ。
必要最低限の欲だけで、私は生きている。
父は欲に溺れ会社の金を横領した。
その責任は全て母に押し付けられたのだ。
母は水商売で私を養ってくれた、だが私が高2の春に酔った客に殺されてしまった。
本番を迫られ拒否した母に逆上して殺したとのことだ。
本当に許せなかった。
唯一の心の拠り所だった母を失ってから私は感情をほとんど感じなくなってしまった。
一人寂しく食事を摂り、進路に悩み、苦しみ、嘆く、だが、誰も助けてはくれない。
こんな人生、疲れたんだ。
待っててね、お母さん。
やっと分かった、私が今、一番欲しいもの。
過去に価値なんて感じてなかった、母からの愛だと。
『私の名前』
私に名前はない。
幼い頃、道端に捨てられていた私を宿の主人は拾ってくれた。
けど、そんな私はこの宿で存在なきものとして扱われている。
みんな名前で呼び合っていて、とても羨ましくなる。
けど、私のことを愛して名前を呼んでくれる人などいない。
分かりきっていることだけど、考えていると目に涙が浮かんでくる。
いくら堪えても、涙が止まらない。
いままでも、堪えて、堪えて、涙を流さないよう、弱い所をさらけ出さないように。
耐えてきた。
だけど、疲れてしまったんだ。
私が泣くと空も共鳴した。
私が泣けば雨が降り、私が大声で嘆けば雷雨になる。
だから、誰にも悟られぬように堪えてきたが、もう、無理なんだ。
その日から雨が止むことはなかった。